おまけ29・翔子、幟を装備して

 母子手帳とのぼりをお役所で貰って来た。

 妊娠したんだから当然だ。


 そして私は、普通は学生が妊娠したら退学になるんだけど。

 私はそのまま在籍した。


 結婚して、その結果の妊娠の場合。

 その妊娠は校則の外になる。


 だから私はそのまま学校に通えて、卒業できる。

 だけど……


(大学校には、私は行けないのか)


 大学校。

 学問を学べる場所。


 私は歴史と神話が好きだったから、古代文学を研究してみたかったんだけど。

 私はそのために、勉強することが出来ない。

 だって、大学校は無試験では入れないから。


 ……兄様2人は、大学校に通わせて貰っていたのに。

 男の人は、ずるいなぁ……


 そんなことを、少し考えた。

 だけど


 ……まあ、子育てや仕事が楽になってから。

 そこで改めて、大学に行って学問に触れるのも良いわよね。

 頑張れば、それを可能に出来るだけのお金、稼げるかもしれないし。


 そう、すぐに思い直し。

 暗い気持ちを吹き飛ばす。

 誰も喜ばないしね。暗くしていても。

 夫にも迷惑だし……


 そこで私はおなかを撫でる。


 ……この子のためにもならないし。




 教室で。


「へぇ……小石川さん妊娠したんだ」


「しっ、失礼だぞ。下種な想像をするな」


「そういうお前のそのテントは何だ」


 私が幟を立ててから、クラスメイトの男子がこそこそ見てくるようになってきた。

 どうにも、男子にはこの幟がとてもエロティックなものに見えるらしい。


 ……本来は、社会で守っていくべき妊婦の存在を、周囲に広く知らしめるためのものなのに。


 すると


「ちょっと! 男子たち! 小石川さんを見てテントを張るのはやめなよ!」


「そうだよ! 結婚している小石川さんがこの幟を立てることは、そんな厭らしい目で見ていいことじゃないはずじゃん!」


 青井さんと真波さんが、幟を立てて席に座っている私を庇うように立ち、男子たちを非難した。

 すると男子は


「そんなこと言っても青井、これは男の生理現象で……」


 男の生理現象を持ち出して、自分の反応を正当化しようとするんだけど。

 それに対して青井さんは


「それ、精神的にあなた他人のお嫁さんに手を出しているのと一緒だよ!?」


「法律の問題じゃないじゃん! 根鳥ねとりくんNTR男だって呼ばれても良いの!?」


 青井さんと真波さんは一歩も引かず、理路整然と言い返した。

 すると


 男子はショックを受けたようで


「……申し訳なかった。俺は純愛ものしか受け付けないのに、そんなの……ダメだよな」


 後悔の涙。

 涙を流して、頭を下げて来たんだ。

 テントはすっかり畳まれていて


「気にしてないから、良いよ」


 私はそう言って、微笑んだ。

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