おまけ28・翔子、2tトラックから友人を守る

「小石川さん、一緒に修学旅行の小物を買いに行こうよ」


「いこいこ! 私たち、良いお店を見つけたんだ!」


 下校時。

 学校の下駄箱で、クラスメイトの青井さんと、真波さんに誘われた。

 今の学年になってから出来た友達。


 私が魔力保持者であることについて、何も気にしないでいてくれる人。

 一生モノの友達になるかもしれない。

 そう思ったから、私はこの人たちとの関係性は大切にしている。


「そうね、ちなみに何を買うの?」


「洗顔と化粧水」


「私は酔い止めが欲しい」


 じゃあ薬局かな。

 駅前の。


 あそこなら安いし、だいたい置いてるし。


「じゃあ駅前の里見正さとみただしに行きましょう。あそこいけば皆あるから」


「かねぇ」


「じゃあいそご」


 ……華族はお金持ちって皆思ってるみたいだけど。

 別に子供はそんなに沢山使わせては貰えない。

 大体、どこの家もそうだ。


 私だって、月のお小遣いは3000円しかもらえてなかった。


 あとはアルバイト。

 彼女たちだって似たようなもの。


 ……当時は正直、お小遣いが少ないと思ったことはあったけど。

 多分、子供時代に不労所得が多くなると心が華族に相応しくなくなるという、親たちの意図があったのかもしれない。


 王都は自動車の交通量が多い。

 あちこち横断歩道と信号があり、油断できない。


 周囲の確認を怠るわけにはいかないのよね。

 慣れてしまってあまり、意識はしてないんだけど。


 そして、赤信号の横断歩道の前。3人で信号を待っていたら。


「小石川さんってさ、旦那さんと家で何してるの?」


 不意に。

 真波さんが訊いてきた。


 ……悪い人じゃ無いんだけど。

 ちょっと、普通の人が訊きづらいことを訊いてしまう人なのよね。

 彼女としては別に


 旦那さんとどんなエッチしてるの?


 そんな意図は無いのは理解してるんだけど。

 高校生の段階で、そういう質問をするとそういう風に取られかねないって意識、普通はあるはずで。

 だから、普通のひとはそんな質問してこない。


 私は当然、そっちの意味では取らず、普通に返した。


「ええと、仕事の愚痴を聞いてるかな。夫は軍人だから、色々溜まるものがあるみたいなのよ」


「例えば?」


「ちょっと、真波さん」


 そこで、青井さんが真波さんを止める。

 そして諭すように


「国防軍でしょ? お嫁さんにしか言えないこと言ってるかもしれないし、訊いたらダメ」


 そこでハッとして口を押え


「ごめんなさい小石川さん」


「ああ、別に良いから」


 真波さんはそう言って謝って来たので、私は別に気にしていないよと返す。

 分かるわけないもんね。

 普通はそんな、私たちの年齢で、運命共同体になる相手なんて出来ないし。


 そんなの、気遣えって言う方が無茶よ。


 と、そんなことを言っていたら。

 信号が青くなった。


「あ、変わった! いこいこ! 里美正はすぐそこ! 私、酔い止めの他に歯ブラシも必要なの思い出したから、ちょっと先に行くね!」


 真波さんがすぐさま走り出す。

 すぐそこだから、走って行ってもバテることは無いよね。


 そのときだった。


 横断歩道に、2tトラックが突っ込んで来た。

 信号無視。フルスロットル。

 荷台のコンテナに、文字が書かれている。


「異世界転生特集」


 何かの書店関係のトラックだったのかな。

 そしてそのトラックは、まっすぐに真波さんを狙っていた。


「危ない!」


 青井さんの叫び。

 私も血の気が引いた。


 真波さんは「え?」って感じで振り返る。

 トラックに気づいてもいない。


 ダメだ……!


 そして私は、使


 真波さんの肩を念動力の手で掴み、力いっぱい引っ張る。


 ……小柄な真波さんだったから、私の力でも引っ張り込むことができた。


 フルスロットル2tトラックは、まるで真波さんを仕留めそこなったのが残念みたいな感じで、通り過ぎて行った。

 危なかった……。


 大切な友達を無くすところだったわ。


 そして。

 私は自分に転写が起きたことを自覚した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る