おまけ27・翔子、頑張る

「小石川さん」


 放課後。

 帰る準備をしていたら。


 いきなりそんなふうに声を掛けられた。


 ……一瞬、誰のことかと思うんだけど。

 少し考えて自分のことだと気づいて


「はい、何?」


 クラスメイトの女子の呼びかけに応える。

 ……まだ、慣れないのよね。


 入籍後に「これからは小石川翔子になりました」って、クラスで発表したんだけど。


 ……連日の疲れもあるのかもしれない。

 まあ、まだ若いから、私は大丈夫。


 問題は夫だ。

 あの人、働いているわけだから。


 心配だ。致命的なミスをしてないといいけど。


 ……あれから。


 夫とはだいぶ速やかに分かり合うことができた。

 境遇が似ているのもあったのかもしれない。


 あの人はあの人で、かなり強力な魔力であるのは間違いないし。


 ……自分の手の可動範囲を、視界にまで延長できる魔力。

 応用が利き過ぎて、入れない選択肢が無いよね。


 だから、私との結婚が決まったんだと思う。


 ……あの人は、絶対に恋人を作るなと言われて育ってきたらしい。


 転写計画に支障が出るから、と。

 あと……


 セックスもするなと言われていたそうだ。

 理由は、うっかりゆきずりの魔力保持者に当たって、急速に打ち解けて、その結果転写が起きてしまったら。

 これはちょっと、危なすぎるだろ、と。


 管理できない環境下で、転写を起こしていい魔力じゃ無いから。


 まあ、そういうわけで。

 連日励んでいる。


 方向性は私の方に転写だから、私が主に頑張ってるけど。

 ……あの人も経験無いから、かなり大変だわ。


 しかし……


「小石川さん!」


 またプライベートを考えそうになったところで、クラスメイトに再度呼び掛けられる。

 ……申し訳ない。


「ごめんなさい」


 謝罪する。

 多分、今話を聞いていなかったはずだ。


 その旨、伝える。

 相手の子、ため息混じりに再度話してくれた。


「修学旅行の班決めの話。一緒の班に入ろうって言ったよね?」


 ああ……


 そういえば、そうだっけ。

 11月の半ばに、華族の学校の修学旅行がある。


 行先は、初代皇帝の降臨の地……高御座だ。

 そこに2000年前、初代様と初代皇帝陛下が乗った船が、降り立ったらしい。


 そこに建立された惑星教の神殿にお参りし、自分たちのルーツを知る。

 そんな素晴らしい修学旅行。


「うん。ごめんなさい。それで他に何か決めないといけないことあったかしら?」


「高御座神殿にお参りした後、次の日に運命ディスティニーランド行くじゃん」


 うん、そうね。

 地球時代から続いているっていう、わりに由緒正しい遊園地。


 それで?


「それさ、私だけ別行動していい?」


 えっと……?


 それは何故かしら?

 私はそれが分からなくて、ちょっと彼女の顔を見たのだけど……


 なんだか、恥ずかしそうな、嬉しそうな……


 そこで、気づく。


 ……この子、彼氏がいるんだ。

 珍しい。


 自由恋愛の障害、士族や平民の比じゃないのに。


 ……ああ、でも。

 だからこそ、燃えるのかもしれないわよね。


 なので、私は


「他の人が良いのなら、私は良いよ」


 そう、答えた。

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