おまけ26・翔子、結婚する。

「翔子、あなたの結婚が決まったわよ」


 ……え?

 私、まだ四天王に選ばれてないよ?


 その日。

 大事な話があると言われて。


 母に自室に連れていかれ。

 そこで伝えられた。


 私の結婚が決まったと。


 ……そこで、私は自分の認識が甘かったことを思い知らされた。


 母の部屋。

 洋服ダンスと、鏡台。

 書き物をする机。

 そして本棚。


 ……寝室は父の部屋だから、ベッドの無い部屋。


 母は自分の机の上に置いてある、A4サイズの白い厚紙を私に差し出した。


 その厚紙はA4サイズ2枚で構成されていて。

 開けるようになってる。


 ようは、見合い写真。

 私の結婚相手の。


「……どう?」


 一応、見合いの形式を取るんだけど。

 実態はほぼ決まりも同然。


 写真の男性は……結構年上。

 多分、昭雄兄様と同じくらい。


 口ひげのある、逞しい成人男性だった。

 訊くと、26才の軍属の男性だって。

 もちろん身分は華族。


 名前は小石川泰三さん。

 念動力の魔力保持者。


 ……そっか。

 私の結婚相手、兄様とほぼ同じ年齢の人か……


 同年代の男の人と、恋愛してみたかったなぁ……


 そんなことを考えた。

 そのときの私は、学校教育が高等に移行して2年。

 大昔なら、高校2年生と呼ばれる年代。


 学校卒業を待ってもらえないなんて。

 ……この先に待っているもの。


 それが予想できたけど。


「分かった。結婚に向けてしておくべきことって何なのかな? 母様」


 私は前向きに受けることにした。

 華族に生まれた以上、これはしょうがないことなんだ。




 相手の泰三さんに、私の写真を送った。

 これもまあ、形式だけ。


 決まったことだから。


 そして見合いの日。


 地球帝国ホテルの会議室を借りた。

 私は竹ノ内家の令嬢として、スーツを着て臨む。

 グレーのスーツだ。下はスカートの。

 ……私は同年代の女子より胸が大きいので、和服は似合わないだろうという判断。

 髪は括るか括らないかをちょっと悩んだけど、最終的に括らないことを選択。


「小石川泰三です」


 ……私の目の前に座った男性は。

 兄様とほぼ同じ年齢だったけど。


 なんだか、父様に近い雰囲気を感じてしまった。

 あとから考えると、華族の魔力保持者として覚悟せねばならない様々な試練を思い、結論を出して来た人だから。

 私の兄様よりも、人間的に成熟せざるを得なかったのかなと思うのよね。


 2人きりにして貰い。

 一緒に街を歩いた。


 お洒落な店や、レストランなんかが並び建つ街を歩く。

 もうすぐお昼なので、一緒にお昼にしようという話。

 泰三さんが良い店を知っているというので、連れて行って貰っている。


 そして歩きながら


「軍隊ってやはり大変なんでしょうか?」


 そう、会話を切り出す。

 すると


「まあ、最初は軽く地獄でしたよ」


 楽しそうに笑って言った。

 泰三さん。


「走り込みのやり過ぎで、一度足を疲労骨折しましたから。訓練兵の時代に」


 ……学校を卒業してすぐ国防軍に入った人って聞いていたけど。

 やっぱり、軍隊って大変なのね。


 そう、彼の話を聞きながら考えた。


「念動力って役に立ちます?」


 なんとなく、軍隊と相性が良さそうに思えたからそう聞いたんだけど。

 ……ハッとした。

 言い方を間違えた! 焦ってしまう。


 これからこの男性と信頼関係を築かないといけないのに。

 まるで「あなたの魔力なんて使いようが無いよね」って言ってるみたいな。

 こんなの失礼過ぎる!


 言い直そう。

 そう思ったとき。


「そうですねぇ。射程が視界であるって言うのは強いですよ。そして出力は筋力トレーニングで伸びますしね」


 軍人は視力も筋力も大事ですから、相性バッチリですよ。

 そう、嬉しそうに返してくれたんだ。


 ……私の無神経な言い方に、まるで動じていない。

 ああ、この人は色々大きいんだな。


 そのとき、はじめてそう思ったんだ。


 まぁ、私たちの結婚は決定事項だから、このときの出来事があっても無くても、私たちは結婚していたんだけど。

 実際その次の月に、私たちは入籍した。

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