おまけ25・翔子、色々分かってくる
学校には初等の6年間、中等の3年間、そして最終の高等の3年間。
3つの段階がある。
私の学校の段階が中等に移行した2年後、朝のホームルーム前の時間に
「私、辺境に引っ越すことになっちゃった」
ずっと友達だった岩切さんから告げられた。
言った彼女は、とても寂しそうだった。
なんでも、近々辺境に魔物の研究所が出来るので、周辺住民の感情を抑えるために近隣への引っ越しが要請されたらしい。
私たちは王都住まいだった。
今までは。
けど、こういうふうにいきなり「引っ越してくれ」と要請されることは普通にある。
別に珍しいことじゃない。
「そっか。寂しくなるね」
そう返事してしばらく。
段々、彼女の言葉の意味が浸透してきて。
気が付くと、泣いていた。
そしてそれは岩切さんもそうだった。
抱き合って、泣いた。
そして私の学校教育が高等の段階に移行したとき。
「竹ノ内さん、付き合ってください」
放課後、学校の屋上に呼び出されたので、行ってみたら。
同級生の男の子に告白された。
……華族で告白っていうのは、かなり重い。
遊びで付き合うという感覚が無いからだ。
基本華族同士の婚姻は見合い。
その状況で告白するのは、私の両親を説得しますという意思表示に等しい。
本来は家の事情で決めるはずの婚姻を、自分の恋心で変えさせるんだから。
軽いはずが無いわよね。
……目の前の、真っ赤になって緊張している男子。
私によく挨拶してくれる人だった。
この告白、どれだけ勇気が要ったのかなと思うけど。
「ごめんなさい」
私は頭を下げた。
そして続けてこう言った。
「私、自分で結婚を決められないんです」
彼には悪いけど、これ以外無い。
次の四天王選定が終わった後、ようやく私は結婚できる。
そのはず。
……だって。
私は転写で赤ちゃんを作らないといけないんだから。
中等に移行した段階で、私は自分が何を国に求められているのか理解できるようになってきた。
私は、皇帝陛下か同じ四天王になった男性と、赤ちゃんを作ることが求められている。
国防のために。
だから、私はそれまで結婚できない。
当然だ。
そうでないと、私の旦那さんになる人はどうなるというの?
そんなのいくらなんでも酷過ぎる。
だから、無いはずだ。
……そこに気づいたとき。
私は「なんとか自分が四天王に選ばれない希望は無いか?」って思って。
自分の魔力の有用性について調べたことがある。
結果は「私はまず選ばれる」
これだった。
理由は結構あったけど、大きな理由はやはり「火炎無効」
近代兵器は炎を伴うものがかなりある。ここに、物理攻撃を無効化する魔力を合わせれば、そういうものを一切合切無効化できる魔力保持者が完成する。
それは是非ともしておきたい組み合わせだ。
それ以外にも、火事の際に「息を止めて突っ切れば、業火の中でも逃げられる人間になれる」というもの大きい。
死の危険要素でかなり大きいものがゴッソリ消えるわけだ。
欲しいに決まってるよね。
そして魔物には火炎の息を吐く種族がかなり居る。
そいつらの主力兵器が無意味になるのは大きすぎる。
だから、選ばれないわけがない。
その結論に至ったとき、私は悲しくて泣いてしまった。
「学校で何かあったのか?」
私が色々思い出しながら、自宅のお屋敷の居間で、ひとりテーブルで制服のまま座っていたら。
後ろから兄に声を掛けられた。
「あ、昭雄兄様。おかえりなさい」
2人いる兄の、上の方。
長男の昭雄兄様。
父に似た男性で、私と違って黒髪。
眼鏡を掛けていて、わりと高身長。
一見冷たそうな印象を受ける風貌。
……本当は全然そんなことないんだけど。
私より8つ年上で、今は軍で研究員をしている。
化学兵器の研究だ、って楽しそうに口にする人で、軍属研究員になった理由は
「毒の研究がどうしてもしたいんだ。ワクワクする。モノによっては僅か数ミリグラムで人命が損なわれるなんて」
こんなことを満面の笑みで言っていた。
……言ってることはとても危ないように思えるけど、人間としてはとても素晴らしい兄だ。
「今日は研究所の方は?」
「今晩徹夜だから、風呂に入りに帰って来ただけだよ」
そんなことをしれっと言う。
そういえば兄様はまだ部屋着に着替えてない。
研究所に行くときに着る、一張羅だ。
「で、何かあったのか? とても辛いことがあった風に見えたぞ?」
……観察眼がすごい人。
だから、研究員になったのは多分正解だと思う。
隠してもしょうがないし、兄に男性としての意見を聞いておきたいと思ったから、打ち明けた。
今日、クラスの男子に告白されたって。
すると
「そうか……まあ、そいつは余程の馬鹿か、もしくは責任感か、勇気のあるヤツなんだろうな」
そう、兄様は顎に手を当てて、そう自分の思うところを言ってくれた。
学生で、結婚を視野に交際なんて普通考えない。
そのため学生で、女子に告白する奴はほとんど居なかった。
それが兄様の意見。
だからそういう結論になると。
兄様はそう言った。
「……で、翔子にはどっちに見えたんだ?」
意見を求められた。
なので、私は思い返した。
あの男子の名前は……五木くん。
わりと真面目で、評判も良い人だった。
馬鹿と称される人では無いと思う。
そう、伝えたら
「そっか……惜しいことをしたかもしれないな。だが、しょうがない。断ったんだろ?」
私の様子から、兄はそこまで見抜いたらしい。
……流石だ。
だけど
「はい」
そう私が答えると、兄は
「別に華族は見合い結婚が必須ってわけじゃないんだからな」
そう、私にアドバイスのようなことを言ってくれた。
かなり的外れなアドバイスを。
兄は知らないから。
……この国で、魔力保持者の華族が、どういう位置づけなのかを。
無論、兄は全く悪くないんだけど。
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