おまけ:小石川翔子

おまけ23・翔子ビギニング

 私は華族の家「竹ノ内家」で、長女として生まれた。

 家族構成は、両親と、兄2人と、私。

 5人家族。


 兄2人はだいぶ離れていて、そのせいで私は可愛がられていた。

 妹というより、娘を可愛がる感覚だったのではないかと今では思う。

 そして

 その兄2人には魔力は目覚めなかったけど、私たちの両親2人は魔力保持者だった。


 両親は見合い結婚。

 保持魔力の内容から、転写してメリットがある組み合わせ。

 その観点で決まったらしい。


 そして両方とも光使いで、かつ氷使いの魔力保持者になった。

 ようは子供を作る過程で、自然と互いに転写が起きて、双方相手の魔力を保有したのね。


 まあ、華族の魔力保持者の家庭では珍しくも無い普通のことなんだけど。




 私が魔力に目覚めたのは、学校に通い出して4年過ぎた頃だった。

 その日、私の通っている華族の学校で


「今日は、虫眼鏡で太陽の光を集めて紙を焼いてみましょう」


 こういう内容を、科学の授業でやったのだ。


 ……とてもドキドキした。


 モノを燃やす。ワクワクした。

 火遊びはしてはいけないと、両親にキツく言われていたから。

 その、やってはいけないことが、できる。


 ワクワクしないはずがない。


 油性ペンで黒く塗った点に、虫眼鏡で太陽の光を集める。


 ……透明な虫眼鏡のレンズの部分が、まるっきり影になってるのが面白かった。

 なんでそうなるのかが最初分からなかったけど、ちょっと考えて


(あ、そうか。これはレンズ部分の太陽の光が一点集中しているから、影になっているように見えるのか)


 そこに気づいたとき、自分がとても賢いように思えて、興奮した。


 やがて紙から煙があがる。

 そして焦げて、穴が開いた。


(すごい! 本当に燃えた!)


 ただ、想像していた燃え方じゃなかったのが少し残念だった。

 もっとメラメラ燃えたら面白かったのに。




 その日の授業は午後3時くらいに終わって。

 まだ、夏の日だったから、家に帰ってランドセルを自分の部屋に置き、黒いブレザー風の制服から、普段着の白いノースリーブのワンピースに着替えると。


 ……勉強机から虫眼鏡を取り出した。


 で。

 電話の横に置いてある、メモ帳の1枚を取り。

 マジックで黒丸を描き、外に出た。


 ……これは科学の授業の復習だから。

 火遊びじゃ無いから。


 それで、まだまだ高い太陽の下に歩み出て。

 しゃがみ込んで、科学実験を開始した。


 ……暑い。

 けど、太陽が無いと実験できないし。


 汗が出て来たけど、我慢して実験に邁進した。


 すると。


 煙が立ち、紙が焦げて、穴が開く。


 おおおお!


 興奮。

 すごい!


 マッチもライターも無いのに、燃えた!

 燃やした!


 でも……


 もっとメラメラ燃やす方法無いのかな?

 これじゃイマイチ面白くないというか……


 すると、そのときだ


 ……ああ、別に虫眼鏡に拘る必要、無いか。


 そんなことを、何故かすごく自然に思えたのよ。


 で


 私はそのときはじめて魔力を発揮して、紙に火をつけた。

 人差し指から炎を出して、紙に火をつけて。

 そしてメラメラ燃える。


 ……すごい。


 綺麗だ、とも思った。


 だけど


「……翔子。何をしているの?」


 後ろから母親に声を掛けられて、飛び上がるほど驚いて。

 叱られる! と反射的に思い。


 その火を消した。


 消えろと思ったら、瞬時に消えたのよね。


 その様子を見て、母親は


「……翔子、あなた……」


 私が魔力に目覚めていることに気づいたのか。

 そのとき、すごく辛そうな顔をしたのを今でも覚えている。

 その理由を知るに至ったのは、その週末にお役所に魔力保持者登録をするとき。


 でも、本当にその意味合いが理解できるようになるのには、さらにだいぶ時間が掛かったけど。

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