おまけ22・進美、娘に厳命する

 原発の占拠事件が解決した。


 ……そしてその詳細を聞いて、オレは自分が運が良かったんだなと思ってしまった。


 オレたちの代の四天王は、その構成員にひとりもクズが居なかった、って。

 そこ、本当にありがたかったんだな。




 内心、ちょっとだけだけど。

 この転写の使命を与えられたことを運が良かったと思ってたんだ。オレは。


 だってホントはオレは結婚できなかったから、子供を持てなかったんだもの。

 それに、オレはこれで当たった男役の男が良かった。


 他の男と付き合ったこと無いけど、アイツは少なくとも自分の子供に対する責任感あったし。

 オレに対しても、一応責任を感じてくれていた。


 条件としては絶対上々だったと思う。


 ……嫁レースに参戦することもできずに負けちまったのは残念無念だけど。

 それはもう、しょうがないよな。


 まさか「四天王候補者の男女交際歴に差がありすぎる! 平等じゃない!」なんて。

 文句を言うわけにもいかないし。


 国は別に婚活目的で転写を行ってるわけじゃないんだから。


 それに

 人それぞれに色々な経験があって、それで差が出てくるのは当然で。

 それに対していちいち「平等平等」と喚くのは違うよな。


 ……ここで、オレは最初の最初、あのド底辺で喘いでいたクソ親2匹を思い出した。


 あいつらの口癖だったしな。

 この世は平等じゃないってのは。

 アレと同じモンにはなりたくねぇわ。


 あいつらどうしてんのかな?

 どうでもいいからあの日以来、1回も調べてねぇんだけどな。


 でもま。


 クソの分際で孫を持てたんだから、感謝しろ。

 老後の面倒? 看るかボケ。




「……明日から学校だけど、ちゃんと先生の言うことを聞くんだぞ」


 自宅である四天王の社宅で。

 夕食後、オレは娘の和美に明日からはじまる学校教育について、注意事項を伝えていた。


 この国では、6才から18才まで義務教育で学校に通わされる。

 これは義務なので、全額国持ち。


 その先は有償。

 とても高いお金を払って、学問というものをやりたい人間が門を叩く。


 ……この子はどこまで行くんだろうな?

 ……オレも大河も、オツムのレベルは普通だと思うし。

 難しいかな?


 ……久美子の子供は行きそうだな。

 それに男の子だろ?


 傾向的にそれで勉学が優秀だったら、行く可能性高けえよな。


 そんなことを考えていたら。

 オレの言葉に対する、娘の返答。


「うん、それ何回も言ってるよお母さん」


 ……娘はオレの言葉をうんざりした様子で聞いているんだ。


 どうもオレ、コンプレックスからか、大人に問題児扱いされないように娘を扱ってるみたいで。

 うるさい、うるさいって言われんだよな。


 ……どうなのかなぁ?


 でもさ、これはお前の父親も多分賛成してくれると思うんだけど。


「死んだお父さんに申し訳ないから、お前にはちゃんと社会で評価される人間になって貰わないと困るんだ」


 ……言いながら、大丈夫なのかな、これ。

 そう考えるけど……


 言わざるを得ないというか。

 別に勉強で1番になれと言ってるわけじゃ無いんだ。

 ただ、グレて欲しくないというか……オレみたいになって欲しくないというか……


 そっち方向に子供が進むのを阻もうとするの、そんなに変かな?


「……分かった」


 娘は父親の話をすると、まあ大体黙る。

 ……重たく感じてるのかな?


 娘には父親の話、相当盛ったんだけど。

 非の打ちどころのない男でしたー、みたいな。

 父親は優秀だったと言われた方が良いだろと思って。


 ……でも。

 実はこれも、ちょっと大丈夫だろうかと考えている。


 うーん……誰にも相談してないんだよな。これ。

 引かれそうで。


 そんなことを考えながら見つめていると、和美は赤いランドセルに明日持っていくものを詰めていた。

 ノートやら、教科書やら。


 ……大きくなったなぁ。

 そう、感慨深いものを感じながら。


 いっこだけ、言い忘れていたことがあったと思い出す。


「和美」


 オレの呼びかけに、娘がオレを見上げてくる。


「何?」


 その言葉に、オレはこう言った。


「士族の男の子とだけは友達になるな」


 ……そいつ。お前の腹違いの弟の可能性あるからな。

 そんなのと恋愛関係になってしまったら事だし。


 危険性の芽は摘んでおかないと。


 娘は理由が分からないせいか、こう訊き返して来た。

 きょとんとした感じで。


「……どうして?」


 それにオレはこう答えた。


「どうしても!」

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