おまけ18・進美、対策を考える

 大河にアドバイスを貰った。

 だから必死で考えたよ。


 あいつらはこれから機械の耳で外を認識する。


 その場合、生身の耳と違って来る別の弱点って何だ?


 ……色々考えた。


 最初に考えたのは、機械を故障させる方法は無いものかということだった。

 色々調べて。


 調べて調べて……


 最終的に思いついたのは、電磁波爆弾。

 久美子に意見を求めたときに、概念だけ聞いたそういう武器。

 なんでも電子機器を壊す爆弾らしいじゃねえか。


 うってつけのように感じたけど。


 ……これ、核爆発が要るんよな。


 じゃあ、個人では使えんわな……


 敵を殲滅するために、周辺の電子機器を広範囲で軒並み全滅させるとか。

 ありえねえし。


 ……じゃ、無理か。

 残念だけど。


 そして……

 次に考えたのは、スピーカーとマイクのハウリングを人工的に外部の操作で起こすことは無理なのか?

 これだった。


 これに関しても、考え始めて早々に「まず無理筋だ」と思うに至った。

 ハウリングというのは、成立条件が結構厳しい。

 ちょっと条件が崩れるだけで、起きなくなる。


 とすると、狙ってやるのは厳しいよな。


 外部操作で意図的に起こすっていうなら、その厳しい条件を全部こっちで整えなきゃいけないってことだし。

 無理無理。絶対無理。


 ……だけど。

 絶対無理って言葉。

 本当はあり得ない言葉なんだよな。


 何故って、人間は世界の成り立ちを本当の意味で分かってないから。

 皆、手探りで想像しながら組み上げて来たんだ。

 世界がどういう理屈で成り立っているかを。

 全部想像なんだよ。


 ……まぁこれ、久美子の受け売りなんだけどな。

 ここから何が言いたいかっていうと……


 ハウリング音を響かせる小型の機械を作ればどうなんだ?


 ってことなんだよな。


 あの「洗脳除けシステム」を作ったやつらは、その機械に全幅の信頼を持ってるはずだから、いきなりハウリング音が聞こえてきたら絶対にギョッとするはずだ。

 絶対にそんなものが起きない構造にしてるのに、聞こえて来た。

 これは、機械に異常があるのかもしれない。

 これ、絶対に思うよな?


 まさか「こっちがそんなリアクションを予想して、ハウリング音の音を響かせた」なんていきなり思わないだろ。

 故障に思い当たり、少しは混乱するはずだ。


 ……で。これが奴らの隙になる。

 で、国の技術課の人に、そういう注文を出したらOKを貰えた。

 よっしゃ!


 あとは……その隙をついて戦える戦闘力だな。




「……伝説の手斧って無いんか」


 オレは魔剣のカタログを見て、そう文句を言ってしまった。


 魔剣……今から100年ほど前に存在した「本物以上の贋作を作り上げる魔術師」の魔力を持った刀鍛冶の作品群のこと。

 彼の作品は刀鍛冶だけあって、ほとんど剣なんだけど、中には槍も存在して。

 弓もあったりするんだけどさ。


 ……斧が無いんだよな。


 何でなんだ?


 斧……特に手斧は、女が扱う武器としては最適なんだよ。

 武器の重量の偏りが、強烈な一撃を産むし。

 斬り付ける際に要求される技術の習熟度具合からしても、オレ向きだ。

 振るうだけなら、そんなに修行を積んでなくても良いから。


 だから、魔剣カタログに「伝説の手斧の複製」みたいな製品無いかなと思ったんだけど。


 ……無い。


 あまりに無いんで、調べてみたら


「……斧は便利過ぎて、一般の斧と伝説の斧の差別化がしにくいから伝説化しなかった、だと?」


 ……そんな説を読んで、うぇー、と思った。


 つまりあれか?


 80点の中の95点と、60点の中の95点では同じ95点でも重みが違う。

 その重みの差が、伝説化するかどうかの差になると?


 ……正しいかどうかは知らんけど、まあ、厄介な環境に立たされている武器なんだな。

 強くて便利な武器なのに。手斧。


 で、への字口でカタログを眺めていたら……


 1個だけ、見つけた。


 ……オレの目は釘付けになった。


 その名は「ジャガーノート」


 おお……なんかかっこいい。

 説明文を見る。


「ええと……西暦……地球の暦のことだよな……西暦2000年代に、社会人を廃人化させていた伝説的MMORPGで、大きな価値があった片手斧の複製です。所持すると筋力が向上します。そしてその上昇した筋力からでも予想できない破壊力ある一撃を約束します。デメリットとして、体重の増加による俊敏さの低下があります」


 ……なんかろくでもねぇな、オイ。

 社会不適合者を量産していたネトゲの中の武器の複製かよ。


 でも……


 筋力向上と、それ以上の破壊力向上は正直スゲー興味ある。

 他の片手斧はちょっと見つけられないのもあるけどさ。


 是非欲しい。


 なので、購買部に言って、なんとか1つ購入できないか聞いてみた。

 すると約2週間後……


「佐倉さん、この前のお話なんですけど」


 購買部の眼鏡のお姉さんがオレに話し掛けて来た。


「えっと、なんでしょう?」


 この間の話……ジャガーノートのことだな。

 そう思ってたから、ドキドキした。


 そしたら、返って来た言葉がこれだった。


「……製作者がその生涯で製作した数が7丁で、うち6丁を国防軍の女性兵士が所持しています。残り1丁は、現在末期癌患者が入院している終末医療施設在籍の、88才の老人のものですね」


 ……なるほど。

 つまりお姉さんは、オレにその老人と交渉してジャガーノートを譲ってもらってこいと言ってるんだな?


 上等じゃねえか。やってやんよ。


 だから


「そのご老人の連絡先を教えてください」


 それを予想していたのか。

 お姉さんはスッと紙を渡してくれた。


 オレはそれを受け取り……


 その名前を見て。


 ……驚愕した。

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