おまけ12・進美、主人公をNTRれる。

 魔族への使者として派遣される外交官の護衛として、大河と久美子が出張。

 あの2人……ヤってるよな。

 というかさ……


 久美子のヤツ、大河との距離がね……

 ゼロになってる気がする。


 あれは明らかに肉体関係があった態度だ。


 まあ、それはいいんだよ。

 決まってることだし。


 問題は四天王の部屋に2人が帰って来たときだった。


「ただいま戻りました」


 部屋に2人が戻って来たとき。

 久美子のやつ、眼鏡を掛けてなかった。


 ……んん?


 確か出張行く前は眼鏡掛けてたよな?

 どういうことだ?


「お前、眼鏡どうしたの? コンタクト、前から作ってたの?」


 そう訊くと


「あ、双転写で大河の魔力が全部私にも転写されたんです」


 ……すっげえ嬉しそうにそう言いやがった。


 双転写……オレも知ってる。

 初代皇帝陛下と皇后陛下の間で起きたという、究極の転写。

 真実の愛を結んだ者同士でしか起きないって伝説では謳われているやつ。


 こいつ、そんな転写を起こしやがったのか。


 オレは……ガーン、って思った。

 何故か分かんねえけど。


 2歩も3歩も先に行かれた気がした。

 何故か分かんねえけど。


 その日の事務仕事は、簡単な文章を書くのに、やたら誤字が増えて大変だった。

 最初と最後の文体があやしかったりもしたから。

 書類が出来た後に、いつもより数回多く見直した気がする。


 ……情けねぇ。

 経験が無いと、こういうもんなのか……。




 そして、四天王の魔力が大河に全部揃ったので、とうとう、最後の転写の日取りを決める流れになった。

 陛下への転写。


 ……オレはこれに関しては、普通とは何か違ったものを感じた。

 別に陛下には何も思わなかったんだ。

 この国のためにありがとうございます、くらいだ。


 ここらへんなのかな。


 オレと久美子の違いは。


 ……久美子のヤツが、1人で落ち込んでるのを目撃したことがある。

 陛下への転写が決まった後でだ。


 それでまあ、思った。


 ああ、もうこいつの中では大河は自分のオトコになってるんだな、と。

 だから陛下にこれから自分のオトコを寝取られるみたいな気分になってんのか。


 この辺で、もう自分とは違うんだなと思ったよ。

 オレ、そういう思いがどうしても湧かなかったから。




 その後。

 転写の日が過ぎた後。


 大河のヤツが、物陰に久美子を引っ張り込んで、ものすごいキスをしながら久美子の身体を触りまくってるのを見てしまった。

 慌てて隠れて。

 ……アイツ、何やってんだと思ったけど。


「落ち着いた……?」


 一通り済んだ後、久美子のヤツ、そう言いやがった。


 その声がな……ありゃあ、完全な嫁の声に聞こえたんだ。


 そんで。

 しばらくして


「昨日入籍しました!」


 左手薬指の指輪を示しながら、結婚報告。

 久美子は、自分は今日から藤井久美子ですと宣言。


 ……今までも比じゃない衝撃を感じた。


 目の前の光景が揺らいだ気がする。


「あらおめでとう」


「ありがとうございます」


 小石川が久美子にそう祝福の声を掛ける。

 この頃には小石川、ほぼ臨月で、産休に入ろうかという段階だったけど。

 それに間に合った形だった。


 小石川は笑っていたけど。


 ……久美子のヤツは笑って無かったな。

 横に居た、大河のヤツもだけど。


 結婚式の話は聞かなかった。

 ひょっとしたら、身内だけでひっそりするのかもしれない。

 オレたちに気を遣って


 ……オレには関係ない話だけどさ。


「おめっとさん」


 そんなことをつらつら考えながら。

 オレは2人に祝福の言葉を掛けた。




 その日、家に帰って1人になったとき。


 ふいに、泣けてきた。


 大河と久美子が結婚した。


 ……なんというかさ。

 オレ、もう旦那がいる状態で子供を産む未来、完全に絶たれたんだなぁ、って思って。


 この未来、別に受け入れてたし。

 旦那が居ればいいってもんでもないのも分かる。


 だけどさ……


 オレ、やっぱり本当は大河の嫁になる未来が欲しかったんだなと。

 今頃気づいた。


 ……アイツ、責任取るべきじゃないか、なんて言ってくれてたのに。


 チャンスはあったのに。


 ……オレ、自分で止めを刺してしまったんだな。

 泣くくらいなら、ちゃんとやっとけば良かっただろ。

 自分の生い立ちの負い目なんて関係なしに。


 アホか、って感じだ。


 四天王になるまで童貞だった奴に、そんなオレの気持ちを察して強引に連れ出せとか。

 アホとしか言えない願望だよな。まるっきしガキじゃねぇか。


 その辺キッチリ察して、久美子のやつはキチンと動いたに違いない。

 そのへんが、この結果に出たんだよ。


 ……畜生。


 この子には、オレと同じ失敗はしないように教えてやんなきゃ……


 オレは自分の腹を見つめ、手を当ててそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る