おまけ11・進美と惑星教

 藤井のヤツが久美子と仲良くしてる。

 ムカつく。

 この間も仲良く転写部屋に入って行くところを見掛けた。


 イライラする。


 だけどさ、あれは使命だしな。しょうがないし。

 それにアイツ、別にオレの男でもないし。

 なので、意識的に藤井のことは考えないようにした。


 四天王間で痴話喧嘩みたいなことを起こしたら、きっと陛下の恥になる。

 それはダメだ。


 とりあえず役所に妊娠届を出して、母子手帳とのぼりを貰って来たので背中に立てた。


 なんでも、太古はワッペンだったらしいんだけど、それだと目立たなくて周囲に気を遣ってもらえないという不便があり、いつしか誰が見てもわかる幟を立てるようになったんだとか。


 まあ、この幟を立てた以上、オレはしばらく任務には参加できねぇな。

 ……母子手帳を見ると。なんだか幸せな気持ちになる。

 オレ、自分の子供を持つことは想像して無かったし。それが持てるんだ。

 父親が藤井ならオレは文句ない。

 旦那にはなってもらうわけにはいかないけど、カネの面は国が面倒見てくれるし。

 責任がオレ1人に掛ってくるだけだ。


 ……オレは絶対あんなクソ親にはならねぇ。


 ガキに万引きの片棒担がせたり、売春ウリさせるようなクソ親には。




 そんなことを日々思いながら過ごしていたら。


「なぁ、進美」


 ある日、仕事の打ち合わせをするときに藤井と一緒になり。

 そのときに話し掛けられた。


 ……もうオレには用事無いだろ。転写済んだんだし。


「……なんだよ?」


 そう思って、藤井を見上げると

 なんか真面目な顔で、藤井が


「週末に惑星教の教化集会に行ってみないか?」


 惑星教の教化集会?


 ……何でいきなり?

 意図が分かんないから


「……何で?」


 訊き返した。

 すると


「お前を誘いたいから。悪いか?」


 ……だから何で?

 そこが分かんねぇから、色々考えて……


 1個思い当たった。

 ……処女奪った相手だったら、頼めば転写済んでても、特別だからまだワンチャンあるかも、とか。


 それは……


「……腹の中にオマエのガキいるから、やれねえぞ?」


 いくらオマエの頼みでも、それは聞けないからな?

 流産したら困る。今は大事な時期なんだ。


 だから念のため言ったんだが


「しねえわ! 見損なうな!」


 ……軽くキレられた。

 その後、謝ったわ。


 ……こいつにとっても大事なガキなんだな。

 ちょっと、嬉しかった。




 その週末だ。

 惑星教の教化集会。


 惑星教には正直興味はあった。

 陛下が最高司祭の扱いになっている宗教だし。


 でも、そういう宗教を元犯罪者が信仰していいのだろうか?


 そういう思いがあったから、あえて触れてこなかったんだけど。


 ……集会で話を聞いたら、すでにオレは信者の扱いになってるって話で。


 入信条件は「この惑星に住んでいること」だっていうから。

 だったら、しょうがないよな。


 それが知れて、嬉しい気持ちになっていたら。


 皇帝陛下の話になったあたりで


(な、なぁ)


 ……なんか小声で隣の藤井が話しかけて来た。

 

(何だよ?)


 大事な話の最中に、一体何だよ?

 そう思っていたら。


(お前、今の話知ってたの?)


 ……は?

 オマエ、偉大な地球皇帝の直属の臣下の四天王に選ばれたのに

 この程度のことも知らないの?

 オマエ、士族だよな?

 平民より上の身分なんだよな?


 なのに、何で知らないの?

 平民よりすごいはずの士族の学校で習わなかったのか?


 まともに学校行ってない平民のオレですら「知らないといけない」って思って、自分で調べたのに。


 正直、メッチャ呆れたから


(……あのなぁ、自分の仕える主のことくらい知っておくのが臣下の務めだろ)


 かなり冷たい言い方で言ってしまった。


(勉強しろアホ)


 ……後から知ったんだけど。

 華族以外の学校の基礎教育では、こういう皇族関連の決まりは教えて無いらしく。

 そして一般家庭でも教えないらしいな。

 なんでそうなのか知らんけど。


 オレの家が底辺で、オレがまともに学校行ってないのが原因かと思っていたから。

 オレが臣下になるまで知らなかったのは。


 だからこいつ、まともに学校行ってる癖に、こんな基礎的なことも知らなくて、知らないことに問題意識を持ってない人間なのかと思ったんだけど。


 ……ちょっと酷いことを言ったかもしれん。




 教化集会が終わった。

 素晴らしい体験だった。


「来て良かった。ありがとな大河」


 オレは伸びをしながら藤井に礼を言った。

 オレに聞かせたいって思ってくれたのか。


 その心遣いが嬉しかった。


「まあ、進美がそう思えたなら俺は嬉しい」


 ……コイツ、オレの悩みを想像して、何があったら良いのか察してくれたんだ。

 スゲー嬉しいよ。


 そう思い、講堂を出て参道を通り鳥居に向かって2人で歩いていたら。


 いきなり、手を引っ張られた。


「わっ」


 ぐいぐい引っ張られる。

 なんか人目が無いところに連れてかれる。


 えっ、えっ


 オレは混乱する。

 惑星教の神殿の人目の無い場所。


 ……その手の本なら、アオカンスポット。

 まさか……


 折角惑星教神殿に来たんだから、記念にアオカンしよう。

 そんなことを言い出すんじゃないだろうな……?


 鳥居から遙拝所の参道から外れた、木の陰にまで連れてこられた。


 こ、断らなきゃ……!

 オレ、すごく揺らいでた。

 普通ならアオカンしようなんて言われても絶対断るけど。

 オレ、応じかねないくらい藤井に揺らいでた。


 だから……


「……だから、オレの腹にはオマエのガキが……」


 そう言って、断ろうとした。

 すると


「違うから」


 ……?

 だったら


「……じゃあ、何で?」


 アオカンじゃないなら、オマエのガキが入ってる腹を見せろとか?

 そんなことを色々考えた。

 考えながら

 オレは藤井の顔を正面から見つめる。


 するとだ


 コイツ、こんなことを言ってきたんだ。


「……陛下の魔力ってお前何か知ってんの?」


 ……藤井にトロけてた脳みそが一気に冷えた。

 白状するとオレは知らん。陛下の魔力は。

 聞いてないからな。

 恐れ多くて確認なんて出来ん。


 ……だけど、予想はしてる。

 多分、時間関係の魔力だ。


 オレが洗脳失敗した次の瞬間、いきなり虎の王みたいな関節技を掛けられたあたり。

 いきなりだぜ?

 いきなり完全に極まってたんだ。

 入る前の予備動作の記憶が全くなかったのに。


 ……後からじっくり考えて、あれは時間を止めたんだと予想した。

 んで、絶対に口外しないとも心に決めた。


 ……そう。例えお前でもな。


「……それは陛下から直接訊くこったな。いくらオマエでも、オレの口からは言えん」


 ……こう言った瞬間。

 こいつ、俺に見惚れてる気がした。


 ……自惚れかな。これは。

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