おまけ10・進美と転写と返事
魔族派のやつらに、若い女が誘拐されて、魔族の子供を産まされそうになってるらしい。
だから、救出してこい。
そういう指令。
小石川が妊娠中だから任務から外れて。
オレ、藤井、久美子の3人でこの任務にあたることになった。
で。
藤井は久美子とペアで魔族と首謀者のところ。
そしてオレは単独で若い娘たちが囚われている地下牢に救いに行くことになった。
……うん。
この人選は正しいとは思う。
オレ、魔族とは会話できねぇし。
魔界語全くわかんねぇから。学校まともにいけてねえせいで。
だから、魔族の居る方に久美子が回されるのは当然で、加えて久美子には戦闘能力は無いから、セットで藤井がつくのも当然。
当然なんだ。
……だけど。
(……オレ、藤井とヤったんだけど)
そんな思いが頭にチラつく。
……あれは恋人同士の愛の結果のセックスじゃない。
一応、藤井の優しさで、そういう設定でしてもらったけどさ。
だから、別に藤井は相手の同意さえあれば、自由に誰とヤってもいいはずなんだよ。
オレが久美子に「オレの男に手を出すな」的なことを言うのは筋違いだし。
久美子は久美子で、使命で藤井の子を孕む必要があるんだよな。
だから、止めるのは筋違いでもあるし、使命にも反する。
……クソッ。
なんかイライラする。
「おい、お前何者だ!? 顔を見せろ!」
なんていらんことを考えていたら。
動きにムラが出てたのか、見張りに見つかってしまう。
……ちっ。
こんなヘマしちまうとは……
俺は相手が銃器を持っていた場合を想定し、そっと向き直る。
……人相の悪い、よれよれの服を着た男だった。
下腹もわりと出ている。
で……拳銃を持っている。
俺は相手の銃口を見つめながら
「お前大人しくしろ」
魔力を込めて、言葉を発する。
それと同時に、男の目が虚ろになった。
……ついでだ。
洗脳したそいつから、若い女が囚われている屋敷内の警備状況を確認する。
……見張り、今は5人居るのか。
ちょっと多いけど、やるしかないな。
これがオレの仕事だし。
屋敷の2階へ、外壁をスルスル登る。
壁の凹凸を利用して、ビルを登る技術については、ヤクザの下に居たときに習得した。
2階の窓は警戒甘いパターンが結構多いんだよな。
そっと窓に近づくと、雨戸閉めてなかった。
らっき。おっけ。
懐から、7つ道具のひとつのガラス切りを取り出す。
ダイヤで作ったガラス切り……
心の中で歌うように自分の侵入道具を愛でて。
窓の鍵を弄れる位置のガラスを切って、開ける。
オレにかかればガラスなんて意味は無いし、鍵もほぼ意味ねえんだ。
だいたい3分あればほとんどの鍵を開けられるからな。
(まあ、開けられなかった場合を想定して、そこはハッキリ言わねえけどさ。恥掻きたくねぇし)
そうして、オレは屋敷の中に侵入した。
……中は綺麗だったよ。
すげえ良い家に住んでるのに、何で魔族派みたいな薄汚いクソ思想に染まってんだよ。
意味不明だ。
で、下に降りて……
途中で見つけた見張りを1人洗脳して、監禁場所について訊き出した。
見張りが言うには、書斎の一部が地下牢に続いていて、そこに女たちを監禁しているらしい。
「確か……本棚の中の『魔族の歴史』って本が収まっている位置に……」
ペンライトを使いながら、そのタイトルを探すと。
……あった。
本を抜き、中を確かめる。
……あった。スイッチ。
レバーだ。
引っ張る。
すると
壁の一部が、ずずず、と動き。
地下への階段が出現した。
「助けに来たぞー」
こういうとき、四天王だと名乗った方が良いのかな?
それ、ちょっと思うんだけど。
……逆に反感持たれる可能性あるよな。
オレ、なんて言えば良いんだろうか?
まあ、そんなオレを他所に
「え!」
「ホント!?」
「ひょっとして四天王の方ですか?」
……牢屋の中の、捕まっていた数人の若い女が、喜びの声をあげる。
オレはそれに愛想笑いを口元に浮かべて……
ん……?
そのときだった。
なんか……下腹に違和感を感じたんだよな……。
そして。
女たちを脱出させて。
藤井たちが魔族の方を片付けた後。
全部終わった後に、聞いたんだ。
藤井の口から
転写が起きた、って。
……そのとき。
あのときか……
女たちを助けていたとき……
そう、なんだか普通に受け入れられたんだよな。
藤井には出来れば産んで欲しい、って言われたけど。
産むに決まってんだろ、って言ったら、コイツはまた重く受け止めるかもしれねえし。
「堕胎ろさねえよ。心配すんな……それに、責任取って結婚しろなんて言わねえから安心しろ」
……この程度で止めておいた。
たまに思う。
このとき、もう少し考えていたら、別の未来もあったのかもしれねぇよな。
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