おまけ8・進美、自分の気持ちに悩む

 で、だいぶ考えたんだけど。

 藤井の誘い方。


 結局


「おい藤井」


 いきなり呼び止めて、いきなりデートに誘った。

 ……小細工色々考えたけど。


 どれをやっても、意味ねぇんじゃねぇのかなと思うに至った。

 経験無いのはどうしようもねえし。


 まあ、藤井のヤツは「急すぎる」みたいなことを言ったんだけど。


 別に完成度なんて求めて無いから一緒に遊びに行こうと言ったんだ。




 んで。

 わりと面白かった。


 久しぶりだった。

 ヤクザのところで働いていたときは友達なんて居なかったし。

 陛下のところで護衛するようになった後も、やっぱ友達は居なかった。


 誰かと一緒に過ごすっていいな。

 久々にそれを思ったんだ。


 で、自分のことも話してしまった。

 訊かれたからだけど。


 んだら……

 ちょっと藤井との理解が深まった気がした。


 あいつはあいつで、目が卑屈っぽかったのは何故なのかが理解できた。

 オレの話を聞いて、それがアイツの理解の外だったらしくて。

 埋め合わせか対抗か知らんけど、話の流れでアイツも自分の苦い記憶ってヤツを話してくれたんで。


 男の世界ってそれはそれで、大変なんだな……

 道場で頑張っても勝てないってのが、どのくらい辛いのかは当事者でないオレにはわかんねえし……




 で、小石川が妊娠した。


 ああ、来たか。

 そのとき俺が思ったのはその程度。


 まあ、小石川の心境は気になったけど。

 オレがどうこう言うことじゃないしな。


 ……でも、なんだか引っかかるものを少しだけ感じた。


 初デートの後、わりと何回もデート行ってたしな。

 それもあったかもしれねえ。


 ……オレは考え込む。


 オレの中でアイツはどういうものになってるんだろうか。


 その自分のアイツへの想いってものを考え込むことになったのは


 藤井が小石川に土下座したという話を聞いたとき。

 えっと、恋心を暴走させたのか?


 そう思ったんだよな。


 まさか「小石川が子供を堕胎することを恐れて、土下座した」とは思わなかった。


 オレは小石川とよく会話してたから、それは無いと確信を持って言えたんだよな。

 産休に入ることを計画してるの、言葉の端々に出てたんだ。


 堕胎するつもりなら、産休に入る計画なんて立てる必要ないし。

 だいたいさ、アイツは自分の都合で作った子供を、心情的に育てられないからって理由で堕胎する女じゃないし。


 わかってねぇなぁ……と思ったけど。


 後から久美子のやつに「あれは自分の子供の安全を第一に考えらえれる男性だから出た行動なんです」って言われて。

 ……この辺で、アイツと差を付けられたんじゃないのかと思う。

 アイツの方が、この時点でアイツへの理解後高かったんだなぁ。


 ……これが経験の差なのか。




 オレとしては、転写は避けられないし。

 遅らせれば遅らせるほど陛下への怠慢になる。


 ……もう、いいんじゃないのか。


 もう何回も映画に行ったし。

 これ以上は我侭じゃね? 家臣としてそれはダメだろ。


 そう思ったんで。

 もう、あいつに抱かれるか。


 決断した。


 ……よし。


 藤井を廊下で見つけたから、言ったよ。


 ラブホに行こうぜ、って。


 ……転写部屋はどうしても嫌だったんだ。


 そしたら……


「分かった。待ち合わせはいつものところで良いか?」


 ……受け入れてくれた。




 服装は何が良いかとだいぶ悩んだ。

 事前に、小石川に相談して、良い服を選んで来たんだ。


 ……子供っぽいのは嫌だった。

 オレ、背が低いからな。


 よし。これで行くぞ。

 この日のために用意した一張羅だ。


 ……その衣装で待ち合わせの場所に現れたら。


「似合ってるな」


 いきなり、そんなことを言われた。

 ……すっげえ嬉しかったよ。


「……行くぞ」


 だけど俺は、すっげえ恥ずかしくなった。

 何故か知らんけど。




 で、ラブホに連れ込まれた。

 ……いや、こういう言い方は卑怯だわな。


 アイツが気を遣ってくれたんだから。


 んで、部屋選びの段になったとき。

 何が良いか聞かれたので


「和風がいい」


 と答えた。

 和風って、純愛っぽいイメージがあったんだ。


 ガキのイメージだけど。

 その手の遊びのセックスをするハナシで出てくるのは大体ベッドだし。


 転写部屋もベッドだし。


 だから、布団が良かったんだ。

 ……万年床は絶対嫌だけどな。




 部屋に案内されたら、時代劇のお姫様みたいな部屋で。

 もう、頭の中がぐるぐるしてきた。


 あと20分もすれば藤井とセックスする。


 オレ、こいつのこと間違いなく嫌いじゃ無いし、多分好きだと思う。

 だけど、現状のこの気持ち、本来はセックスするような気持ちなんだろうか……?


 今更悩んでもしょうがないんだ。

 やんなきゃなんないことだし。


 ぐるぐるぐるぐる考えていると。


 シャワー浴びて来いと言われたから


 そうした。


 服を脱いでシャワーを浴びつつ


 藤井とヤる藤井とヤる藤井とヤる藤井とヤる藤井とヤる……


 ずっと考えていた。




 備え付けの、赤色の浴衣みたいな衣装を着て。

 布団の上でテレビをつけたら


 テレビ画面に、股を広げた女が後転するみたいな身体を丸める体位で、男に舐められて喘ぎ声をあげてる場面が映し出されていた。

 ……えーと、まんぐり返し?


 ちょっと、これから起こることへのイメージが強くなるので、慌ててチャンネルを変えた。

 すると、国への裁判を起こしてる変なヤツのニュースをやってたので、それにした。


 内容があんまり入ってこない。

 今、シャワーを浴びてる藤井のことばかり考えている。


 ……シャワーの音が止まった。


 ……来る。


 浴室のドアが開いて、湯上りの藤井が出てくる。


 ……姿が見れない。

 興奮と不安……あと、恐怖。


 足音でどこに藤井がいるのかは手に取るように分かる。


 そんなアイツが


「進美は惑星教の信者なのか?」


 なんか訊いてきたから、首を左右に振った。


 惑星教……お参りはしてるけど、信者だと言った事は無い。

 オレは汚れてるから。

 信者だと名乗ったら、惑星教を良く思ってないヤツに惑星教をバカにされるかもしれねぇし。


 それは……ダメだろ。


 そしたら……しばらく沈黙。

 なんだ……?


 いつ来るんだ……?


 オレは心臓の鼓動がヤバくなる。

 あと数分後の自分が……想像できない。


 そしてついに


 藤井がオレを押し倒し、オレにキスしてきた。


 これが……オレのファーストキッス。

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