おまけ7・進美の小石川翔子評

 藤井のヤツが小石川とヤりやがった。


 ……オトコできたことないけどさ。

 ヤクザのところで働いていたときに、同僚で男が居たからね。

 そういうのはさすがに分かる。


 ……いや、それ以前の問題かもな。


 藤井のやつ。

 なんか、ずっと小石川を見てんの。

 元々、美人に目が無いっていうなら別だけどさ。


 こいつ、ここに来たときはそんなことは全然無かったんだよな。


 なのに、見てる。

 しかも……


 なんか、見惚れてる。

 釘付け。

 そんな感じ。


 だから会議中に思わず訊いてしまった。

 オマエ、小石川とヤったのか? って。

 そしたら認めやがったので。


 本気になるなよと釘を刺した。


 フン……


 小石川翔子……


 ある意味、オレと対極に居る女だな。


 まあ、髪の色は魔族色の金髪だから色々陰口叩かれてそうだなとは思うけど。

 他はみーんな持ってる女だ。


 見た目は最高に良いしな。髪の色以外。

 目が青いのは綺麗で珍しいし。

 それにすっげえ美人だし。優しそうにも見える。

 あと、チチが大きい。スタイルが抜群に良いんだ。


 あと、華族。


 華族……国から裕福に暮らすのに問題ない額の俸給を貰える身分。

 昔は嫌いだったよ。贔屓されてるムカつくやつらだ、って。


 今はそんなことは無いけど。

 陛下の臣下になってからは、そういう気持ちは捨てた。

 陛下の恥になると思ったからだ。


 会ったのは陛下から四天王になる話をされたすぐ後で。

 アイツは華族だから、本人の意思確認も無しで、問答無用で決められたらしい。


 ……こいつら、大変な身分だな。

 それをはじめて実感した。


 聞いた話では、引っ越しをよく要請されるって話だったけど。

 ゴミ処理場の近くとか、化学工場の近くとか。

 他人が住むのを嫌がる地域への転居要請。


 そんなこと、国から金を貰ってる身分なんだから、それぐらい当然だろと何も考えずに思ってた。


 でも、こんな「転写計画」への参加まで、強制だってのが。

 そのとき、はじめて理解できたんだ。

 華族が背負ってるものの大きさを。


「私は小石川翔子。あなたが佐倉さんね?」


「……よろしく。佐倉進美です」


 初対面時。そのときからアイツはオレに友好的だった。

 これが、年長者の余裕なのか?


「進美ちゃんって呼んでいい?」


 いきなりだった。

 ウゼエと思ったが、華族と仲良くしないと陛下に恥を掻かせるかもしれないと思ったので。


「……お好きにどうぞ」


 許可した。




 で、資料を見て、あいつの詳細を知るに至り。


 ……こいつ、転写したことあるのか。魔力が2つあるって……。

 華族なんだから……結婚してるってことだよな。

 華族は見合いが基本だって言うし……


 そこに気づいた。


 マジか……

 メチャメチャ明るく振舞ってるのに。

 既婚者でこの計画……


 こいつ、旦那がいるのに、他の男に孕まされても平気なのか?

 どういう心境なんだ……?


 オレ、アホだったからそういうことを考えて


「小石川さん、アンタ、平気なのか?」


 ……アホ丸出しの質問をしてしまった。


 すると


「何が?」


 なんか、スッと真面目な目で訊き返された。


 ……言ってから「しまった」と思ったけど


 もう、後には引けないし。

 だから


「……旦那がいるのに、転写なんて」


 ちょっと、声が震えた気がする。

 さすがに覚悟が無かったから。


 そしたら


「だって華族なんだからしょうがないでしょう。この国の建国からずっと決まってることなんだし」


 本当に普通の調子で言って来るんだ。

 そこに悲しさも辛さも無かった。


「……華族の魔力保持者は、魔力に目覚めて役所に魔力登録するときに、この国の伝統的儀式について聞かされるの」


 そして教えてくれた。


「あなたは将来、国から転写要員として呼ばれるかもしれない。そのときは必ず参加しなさい。あなたに拒否権は無い、って」


 マジか……


「特に私は、火炎使いだから、火炎で絶対に傷つかないって特性がね……有用過ぎるから高確率で呼ばれるだろうって言われたわ」


 懐かしそうに語る。

 とんでもない内容を。


「夫にしても、あの人も『念動力』と強力だから、私とほぼ強制的に結婚ね。こんな魔族色の髪の毛の女と結婚なんて、抵抗もあったでしょうに」


 言って、楽しそうに笑うんだ。

 すっげえ酷い話を。


 ……つまりあれか。

 こいつ……旦那も周りに決められて、その相手と転写できる関係性を作って。

 その上で、今度は別の男と転写しろって言われてるのに、普通にしてるのか。


 ……ホント……すげえな。


「……アホ丸出しの質問してすまねぇ」


 全部聞いた後、オレは侘びた。

 もう、謝るしか無いよな。


 そんなオレに


「まあ、変に見えてもしょうがないわよね。色々特殊だし」


 そう、笑いながら言ったんだ。




 だからさぁ……


 藤井のヤツがアイツにハマるのは分かるんだよ。

 すごい女なの間違いねえしな。


 で、どうせアイツ、小石川にヤらせて貰うまで童貞だったに違いないし。

 そりゃな、そうなるかもしれんよな。


 ……ハマり過ぎて暴れるんじゃねぇぞ。

 結婚してくれとか、恋人になってくれとか。

 それ、無理筋だからな?


 それだけが、不安だった。


 ただでさえ、大変な環境にいる女なのに。

 これ以上、厄介ごとに関わらされるのはな……


 ……オレも、動いた方が良いのか?

 他の女にも誘われれば、アイツも小石川にハマり過ぎることもないかもしれねぇよな?


 ……でも、オトコを誘うってどうやるんだ?

 そこで立ち止まり、腕組みして考えてしまう。


 まさか洗脳の魔力を使うわけにはいかねぇし……


 オレはオレで……オトコと付き合ったことねぇもんな……。

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