おまけ:佐倉進美
おまけ5・進美ビギニング
オレは平民の生まれで。
親父はろくに働かず、母親も働かない。
理由はよく知らんけど、なんかの理由で生活保護を受けていた。
普通、生活保護はやむを得ない理由で泣く泣く受けるものだけど。
オレの両親は違ったね。
手段は知りたくも無いから調べてないが、アイツらは確実に「単に働きたくないから」生活保護を受けていた。
無論、暮らし向きは苦しかったけど、それでも働くのを拒否した。
「働くなんてやってられるか。こんな不平等な世の中で」
「これは私たちの世の中への抗議よ」
……意味不明。
でも、あいつらは本気でそんなことを言ってたんだ。
でも。やっぱ稼ぎたかったのか。
最初は、万引き。
アイツらの言うとおりに、アイツらがギってきた品物を、オレの服の中に隠して店外に持ち出すってことを繰り返した。
で、何故か1回も発覚しなかった。
盗んで来たものは、アイツらが転売サイトで売って稼ぐ。
でも、段々と「万引きで稼ぐのは労力に見合わない」って思ったのか
次に医療費がタダになることに目をつけ、病院で貰って来る薬の転売で稼いでいた。
嬉しそうに「お客さんがいっぱいよ」なんて、あのクソババアは言ってやがったけど。
何年か過ぎて、とうとうアイツらは捕まった。
で、初犯だからということで、アイツらは執行猶予がついて許された。
……オレが驚いたのは、あいつらに前科がそのときまで無かったことだったね。
普通に考えて、ボロボロなのが当たり前の状況だと思うのに。
……ああ、でも。
そのせいで、お上を舐めてたのかもしれないな。それまでは。
けど、はじめて捕まってブルッちまったのか。
もう二度と、薬の転売には手を出さなくなった。
代わりに
「進美に稼いで貰いましょう。このくらいの子供だったら、買いたがるお客さんは多いわ」
名案!
みたいな言い方で言った。
あのクソババアは。
で。
自宅でウリをやらされそうになった。
汚ねえ、狭いアパートの一室の。
敷きっ放しの万年床。
あいつらがお客を探してきて。
家に連れて来た。
「……本当に処女?」
「ええ。誰にもやらせてないですから。膜の代金はお約束通りに……」
「ああ、初物をいただけるなら、ナンボでも払うさ」
いいトシこいたおっさんだった。
年齢は、オレのクソ親父より上だったと思う。
……オレはそのときまでは、両親にずっと従順だった。
でも、そのとき
嫌だ!
って、初めて思ったんだ。
その瞬間だった。
だったら黙らせろ。お前にはその力がある。
そんな言葉が、頭の中で浮かんだんだ。
そして……
「
そう叫んだら。
……その場に居た全員、動きが止まった。
俺は魔力に目覚めた。
目覚めて最初にやったことは
「お前ら全員私のことを忘れろ」
この暗示。
二度と帰るつもりは無かったから、当然だ。
そしたら全員コクンと頷いたから
それを確認して家を出た。
私服1枚。
何も持たず。
で。
街に出て、ガラの悪そうな人間を探した。
そういうのがいそうな場所に行って
洗脳して
そいつの知識から手がかりを得て。
……そういう行為を繰り返し。
最終的に、暴力団の組事務所を見つけて、入り込んだ。
で、売り込んだんだ。
「私の魔力を買え」
って。
絶対、ヤクザの仕事と相性がいいと思ったんだよな。
実際、その通りだったんだけど。
で、さすがに洗脳一本じゃやってくのは厳しいから
侵入技術だとか。
鍵開けだとか。
絞殺スキルだとか。
ナイフ術だとか。
忍者の真似事みたいなワザを習得せざるを得なかったから、した。
で、そこからずっと、企業に侵入して、機密情報を盗んで他社に売ったり。
企業の不正の証拠を盗んで、強請りのネタとして組に提供したり。
そういうことを繰り返し。
……いつしか……佐倉進美に依頼すれば大概の秘密は入手できる。
そんな妙な信頼を持たれるまでに至った。
そのときには、俺は自惚れて……
一人称が私からオレに変わっていた。
そして、あまりに自惚れて
(皇太子を洗脳できたら面白いよな)
そう思い、実行したんだ。
自分なら出来るというアホな自信だけは満々で。
完全に、ただの自己顕示欲って奴だ。
この国をどうこうしたいとか思ってたわけじゃねえ。
単に、この国の建国者の末裔で、周りの奴らが神様として敬っている地球皇帝をオレの下につけたい。
そして皇太子はこの先地球皇帝になる。だったら、生い先短い現皇帝より皇太子だろ。
皇太子を洗脳できれば、皇太子が地球皇帝に即位する日に、ニヤニヤできる。
それだけの理由。本当にしょうもない。
で、やってみたら……
難なく、皇太子の寝所まで行けたんだ。
オレは思ったね。
やっぱりオレはスゲエ。
って。
で、寝所の鍵を開け、侵入したときだ。
「……誰ですか?」
女の声がした。
そのときは、皇太子は女だったのか。
ちょっとだけ驚いた。
てっきり、男に違いないっていう勝手なイメージがあったから。
でも、そんなことを思ったのは一瞬で。
オレは言った。
「オレに従え皇太子」
すると……
気が付いたら。
突然、皇太子に関節技を決められていた。
腕を背中側に捩じり上げられて、床に組み敷かれている。
「あぎゃあああ!」
痛みに動けず、悲鳴をあげたら
「……よくここまで侵入できましたね。褒めます。あなたは優秀ですよ」
オレに技を掛けながら、平然と。
「何故だ!? 何故オレの洗脳が効かない!?」
俺が組み伏せられながらそう陛下……当時は殿下に訊ねた。
すると
「……よく分かりませんが……最初の魔力保持者の特殊能力の様なものがあるのかもしれませんね」
お教えくださった。
そして……
オレが侵入の邪魔だと思い、洗脳した警備兵。
それ以外の兵たちが、この皇太子の寝所に駆けつけてきた……
終わったと思った。
理由は全く理解できなかったけど、皇太子には洗脳が効かない。
そして皇太子は、よく分からない魔力を使う。
かなり致命的な性能を持つ、謎の魔力を。
……絶対に、この場で処刑される。
そう思ったけど。
そのときだ。
殿下は、集まって来た兵たちに向かってこう仰ってくれたんだ。
「……この者はなかなかに優秀です。私の最後の身辺警護に是非欲しい逸材です。処刑するのはあまりにも惜しい。待ちなさい」
……そう仰ってくださったんだ。
信じられなかった。
だけど……後から思うと。
オレが誰を洗脳したのか分からねえから。
自発的に話すように、オレを味方に引き入れようとしたんだと思う。
そのときの殿下は。
実際、オレが問題だと思って「オレの不始末の責任を取らせてください」と申し上げたら
それに対して殿下は、意外なことを言われたという
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