おまけ4・四天王選考会議の話

 私の名前は平等院史典びょうどういんふみのり

 この国の現職の総理大臣だ。


 ……今日は、重大な会議に出席している。

 円卓に座り、話し合うのだ。重要な議題を……。


 四天王選考会議……。


 現職の総理大臣と、総理大臣経験者のみが参加できる、秘密の会議だ。


 何故秘密なのか?

 それは、議題が真に国家機密に属するものだから。


 だから、国会では議論できない。

 総理経験者だけだ。


 この会議の存在も、一般では公開されていない。

 知っているのは、陛下と、四天王と、官僚の上層部と、我々総理大臣経験者だけだ。


 だから……

 この会議に参加している面々のやる気は高かった。


「まさか生きてこの会議に参加できるとは思わなかったよ」


 私の2代前の総理の、禿頭男性の賀守がもりさんが興奮した面持ちでそうコメントした。

 私も同じ気持ちだ。

 総理大臣になっても、時代が合わずに生きてこの会議に出られない者はザラに居る。


「……さあ、皆さん。最高の編成を考えていきましょう」


 私のひとつ前の、女性総理だった佐津屋さつやさんはその場にいるメンバーにそう呼び掛けた。


 ……この国の総理大臣の任期は最大4年。内閣総辞職しないのであれば、最大3期務められる。

 なので、最高で12年務めていられるのだが。


 ……何故か12人くらいいる。


 たまに、この国が情けなくなる。


 まあ、今はそんなことはどうでもいいな。

 皇帝陛下を最強の多重魔力保持者にしなければ。


 さて、どういう候補者が居るのか……


 まず目に留まったのは


 小石川翔子。

 華族女性、既婚者。

 所持魔力「火炎使い」「念動力」


 ……なるほど。

 転写経験者は是非入れたいね。1度の転写で2つ魔力が入る。

 まあ既婚者だが、華族なら構わんだろう。そのためにある身分であるわけだし。


 能力の詳細を確認し、別の資料。


 山本久美子。

 平民女性。

 所持魔力「影使い」


 ……お?

 この使い魔という存在、五感を共有できるのなら、念動力でコンボが組めるな。

 彼女と彼女、これはもう入れるしか無いね。セットだ。


「小石川と山本はセットでしょ」


 佐津屋さんも同意見のようで。

 他の皆も、同意見のようだった。


「他に有望な候補者は?」


 ……いくつか上がったが、正直小石川と山本コンボに勝るものではなく。

 自然と、この2人は確定した。


「3人目はどうする?」


「それなんだが……」


 賀守さんが、資料を1枚抜き出して


「私は佐倉進美を推したい」


 ……佐倉進美……。

 ああ、申し送りで聞いたことはある。


 元々、広域暴力団で企業スパイという仕事をしていた犯罪者で。

 企業の後ろ暗い情報を取って来て、強請りのネタを飼い主の暴力団に提供する。

 そんな仕事をしていた女。


 ……そんなのが、何を思ったのか王城に忍び込んで、皇太子殿下の寝所にまで潜入した。

 その話は重大事件として、総理になったときに聞かされた。


 確かあなた、そのせいで内閣総辞職をする羽目になったと聞かされているんだが……?


「この女の魔力の『洗脳』は、意思を持って発した言葉を聞いた者を言いなりにするというものだ」


 ふむ。

 そこまでは普通に聞いていた。


 そりゃ強いな。知ってたけど。

 でも、それは人間相手だろう? 言葉が通じないとこっちの言ってることを理解できないから、命令できないんだし。


 そう、思っていたら


「知っての通り、皇帝陛下は魔界語は帝王学の一環として、完全に習得されている」


 ……あ、そうか。

 皇帝陛下の基本技能を組み合わせれば、魔王の襲来が全く怖くなくなる可能性があるんだな。


 ……それに。

 不届きな逆賊どもを、一瞬で服従させることもできるようになるのか。

 もし、皇帝陛下の御前にそんな不届き者が現れても。


 なるほど……


「私はそれに賛成する」


 私が手を上げると


「私も賛成させてもらいます」


「ワシもじゃ」


「ワシもじゃよ」


 ……賛成多数。

 3人目も決定した。


 最後は男か……


 転写だからな。

 女だけでは不可能だ。


 皇帝陛下が男の場合は四天王が全員女でも構わないんだが。

 今の皇太子殿下は女性だからな。

 絶対1人は男が要る。


 候補者は……2名。


 藤井大河。

 士族男性。

 所持魔力「ネメアの獅子」


 ……ふーん。

 まぁ、悪くないな。

 ネメアの獅子ってことはあれだろ?

 刃物でも鈍器でもダメージを受けないんだろ?

 んで、当然ライオンの身体能力を持っていると……


 神話系は強いね。やっぱり。

 他の候補者次第だが、問題ない人材だ。


 ……目付きが卑屈に見えるのがちょっと気になるが。


 さて、次は……

 あ、こっちも神話系か。


 で、と……


 そして、読んで驚愕した。


 肝山伊作きもやまいさく

 華族男性。

 所持魔力「ハート様」


 ……オイ。

 これはいかんだろう。


 魔力の詳細は「鍛え抜いた貫手以外の物理攻撃無効。身体能力向上」


 内容は悪くない。

 場合によってはネメアの獅子より強いかもしれない。


 でもさ……これは選んだらいかんと思う。


 プロフィールに添付されている写真を見ても、どう考えても体重200キロ行ってるぞ!

 髭も剃ってないみたいだし。

 で、なんでこの状況で添付される写真なのに、鼻くそを穿ってるのこの男!

 常識が無いのか!?


 本当に華族か!?


 ……これはないだろ。

 何故こんなのを候補に入れた!?

 素行の悪い奴は弾くんじゃなかったのか!?


 そんなことを思っていたら


「……肝山かな」


 佐津屋さんが言葉を発した。

 続けて「華族なんだから、こっち優先でしょ。道義的に」


 まてえええええええ!!!


 それは断じて道義的ではない!


 ……その後、私が会議のメンバーを説き伏せるのに、丸3日を要した……

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