おまけ2・陛下のデートの裏側

「陛下、ご帰還あそばされましたか。早速ですが陛下」


「……食したものは広島焼。他は無い」


 藤井を伴って、王城の裏口方面までやってきて。

 そこで別れた。


 ……そして王城に帰還してからすぐ臣下に質問攻めを受ける。


 最初に外で食べたもの。

 あとは主に、藤井について。


 ……彼が臣下として問題は無いか? その1点について。


 彼は今、四天王の魔力を全て転写した状態だ。


 その状態で、この私と転写の儀式をする。


 ……転写の儀式は護衛が居ない。

 もし、反逆の意思のある人間であるならば、危険極まりない。

 ただちに儀式を中止し、四天王の構成を変えなければならない。


 それを皇帝の目で最後に確かめる。

 そういう意味があったのだ。


 ……まあ、楽しかったが。

 生まれてはじめて王城の外に出たのだから。


 特に水族館というものは1度行ってみたかった。

 テレビの中でしか見たことがなかったから。


 皇帝以外はああいうところに行けるのだ。

 とても素晴らしい。次は国民として生まれたい。


 ……話を戻す。


 実は、2代前の陛下の時代に起きた事件から、この四天王選定の人選は相当厳しく成されるようになったらしい。

 その陛下の時代では、基本的に「魔力の内容」メインで、転写計画で都合のいい性別構成で四天王を組む。

 これだった。


 ……そして、これが良くなかったのだ。


 ……それまでの時代での四天王でも、近いことは起きていたのかもしれない。

 だが、その陛下の時代は決定的だったのだ。


 ……とうとう、自殺者が出たのだ。


 四天王に選ばれた男に英雄ジークフリートの魔力を持つ男がいた。

 この男が……


 素行が最悪の男だったそうだ。

 学生時代、何人も女を玩具にし、飽きると捨てる。

 問題が起きても、実家が会社経営者で裕福で太く、家の力でもみ消していたらしい。


 皇帝にジークフリートの魔力を転写すれば、背中の1点以外は攻撃無効、そして通常の人類では対抗できない怪力を得ることができる。

 議会はそれを当時の陛下へ転写すべきだと決定し。


 素行を無視して、四天王に入れた。


 ……すると、四天王の1人が自殺した。


 死んだのは華族の女だった。

 メデューサの魔力を持つ女で、顔を見た者を石化させる能力、飛行能力、そして不老長命の能力を持っていた。


 ……婚約者がいる女だったが、そんなことは華族においては一切考慮されない。


 後日、彼女の自殺が、そのジークフリートの男のせいであると判明した。

 それは、ジークフリートの男の記録からだった。


 彼は自身が平民であることにコンプレックスを持っており、この四天王抜擢を「華族の女を奴隷にできるチャンス」と捉えた。

 そして彼女に筆舌に尽くしがたい性虐待を加えたらしい。そしてそれを全て記録していた。


 その結果、彼女は自殺した。彼女は妊娠していたが、ジークフリートの男には転写は起きていなかった。


 ……それは、最後の彼女の抵抗だったのか。


 その後。

 ただちに再度の人選が行われ、メデューサとジークフリートの代替要員を決定。

 転写作業をイチからやり直し、そして問題を起こしたジークフリートの男は処分されたそうだ。

(おそらく、食事に毒を混ぜて毒殺したか、予防接種を装って背中の弱点に毒を注射したのだろうと思っている)


 だが、さすがにそんな事件が起きたので。

 議会もその後は「四天王候補者の素行」についても厳しく見るようになったらしい。


 ……あまりにも悲しい。


 ただでさえ、皇帝の責務に国民を巻き込む苦行であるのに。

 それで人生を狂わせてしまう者が出る。


 許されないことだ。


 ……私の代はどうなのだろうか?

 それが気になったので、つい訊いてしまった。


「……藤井君は結婚されますか?」


 私は訊いてから、自分の未熟さに気づき、情けなくなった。

 仮に彼が結婚するからどうだというのだ?


 無理矢理でも、結婚できたんだから感謝しろとでも言いたいのか?


 それは絶対に違うだろう。

 だけど。


 彼は……藤井は……


 私のそんな逃避を前にしても


「はい」


 と答え、その後、自分は四天王に選んでもらえたお陰で、最高の伴侶を得られた、と答えてくれたのだ。


 ……その瞬間、私は彼が反逆することはあり得ないと判断した。


 そして。

 私はそんな彼と転写の儀式をする。


 ……すでに相手を決めている男と。


 それがどれだけ彼と、その伴侶を傷つけるか分からない。

 だが、それでもやらねばならないことなのだ。


 ……よろしくお願いしますよ。藤井。


 私は彼に苦行を強いることを命じる。

 それは、避けられないことだから。

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