最終話 俺が手に入れたもの

 王城に帰還してから、かなり大変だった。

 何せ、国内で伝説の兵器である「中性子爆弾」を製造する態勢が整ってて。

 そしてそれを製造することが進行中だってことなんだ。


 騒いださ、そりゃ。


 でも。

 国内で、急に魔物が大量発生した地域が出て来たので、中性子爆弾を製造していた秘密開発所についてはすぐ明らかになった。

 理由は簡単。桃太郎の魔力を持っていた百田鶴来が死んだので、きび団子の魔力が切れたんだ。

 そのせいで、百田の制御下にあった魔物たちが、全部野生に帰った。

 魔力保持者が作成したマジックアイテムに関しては、保持者本人が死ぬと効果がなくなるものとそうでないものがある。


 幸い、百田の場合は前者だったようだ。

 おそらく、きび団子の効果が「百田の下僕になる」だったんだと思う。

 百田が、百田の認めた人間に服従することを望んでいるから、魔物も従っていたんだ。


 魔物退治に軍が出向き、開発所に踏み込んで、全て押収した。

 それで終了。


 しかし。


 ……中性子爆弾。


 これ、魔族にも効くんだろうか?

 それが気になった。


 同じことを考えている人はいるみたいで。


 現在行われている、過酷な安全保障である「地球帝国皇帝の最強の多重魔力保持者化」

 これの代わりにならないか?


 この国の上の人で、そう思っている人がいるみたい。


 ……正直、誘惑には駆られる。


 中性子爆弾があったら、皇帝陛下も愛の無いセックスをしなくてもいいし。四天王もその真の使命を果たす必要が無くなるから、百田のような悲劇も起きない。

 まあ、魔族に中性子爆弾の効果があることが前提の話なんだけど。


 そしてまた、少し時間が経った。




「お父さん、お母さん、行ってきます!」


 とうとう、息子の山河さんがが学校に通う年齢になった。

 ランドセルを背負って、士族の初等学校の制服を着て元気に登校していく。


 聞けば、進美のところの和美かずみちゃんも初等学校に入学。もっとも、あっちは平民の学校なので制服が無いらしいが。


 翔子さんのところもそのはずだけど、俺は訊いていない。

 小石川家の中の話だし、もうあの子は俺の子じゃ無いんだよな。


山河さんがは魔力保持者になるのかしら」


 初登校の日。

 たまたまふたりとも休みをとれたので、息子が登校していく後姿を久美子と一緒に見守った。

 どうなんだろうな?


 両親ともに魔力保持者の場合は、子供がそうなる確率が跳ね上がるっていう研究結果をどっかで見た覚えあるんだけど。


「確率上は高くなるらしいけど、絶対じゃ無いからね」


 そしてそれは、魔力を持たない一般人の間に魔力保持者が生まれることについても同じ。

 確率は低いけど、絶対生まれないわけじゃない。


「……山河も、この子も、魔力保持者にならなければいいよね」


 言って、久美子は自分のおなかを撫でる。


 そうだね、と言いたかったけど。

 俺は黙っていた。

 

 今、久美子のおなかには2人目の子供が宿っている。

 俺たちはそれを喜んだけど……正直、不安だった。


 今さっき久美子の口にした言葉は……本音。


 この国で、魔力保持者に生まれるのは過酷な運命を背負わされることと同義。

 できればなって欲しくない。


 だけど……


 俺の人生を与えてくれたのも、過去の魔力保持者たちの決断の結果なんだよな。

 俺たちは、その受益者なんだよ。

 だから、そうなってしまったら……受け入れないといけないんだよな。


 それに。


 俺は百田を否定した。否定した以上、認めないといけないんだ。

 なおさら。


 だからこう言った。


「なったとしても、幸せになれればいいよ」


 それしか言えない。

 それも久美子も同じだったのか。


「うん。そうだね。信じて、祈ろうか」


 そう言った。


 そうだな……

 先が見えないことはもう、祈るしかない。


「一緒に祈ってくれるかい?」


 そう訊くと


「もちろん。……というか、そう言ったよね?」


 笑顔で応じてくれる久美子。


 ……嬉しい。

 同じことで祈ってくれる相手。


 俺はそれを得ることが出来たんだ。

 かつては、そんなこと想像もしていなかったんだけど。


 久美子……

 俺のことを見てくれたひと……


 彼女のために、俺は自分を信じなければ。

 自分を信じないという事は自分の力を信じないということだ。


 自分の力を信じないのであれば、俺は彼女に何をあげられるんだ?

 真心? 気持ち?


 違うだろ。


 手だ!


 手を差し出すには、自分を信じることが必須なんだ。

 自分の力も信じないなら、何故手を差し伸べられる?

 それを俺は、彼女に愛されて、彼女を愛することで知った。


 だから


「そうだね。……その答えを信じてたから、敢えて聞いた」


 そう言って、こう言ったんだ。


「キミと一緒なら、何が来ても大丈夫だよ」


 俺のその言葉に。

 久美子は俺に抱擁と口づけで返してくれた。


「私も同じ気持ちよ……あなた」


(了)

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