第101話 合作の勝利

 勝てた……。


 刀を振り下ろした姿勢で。


 俺は荒い息をつく。

 そして吐き気を覚えた。


 さっきまでは守らなければいけないという使命感と、殺されたくないという意思で興奮状態だったけど。


 勝利の確信と、それにより生存が保証されたせいで戻って来た平時の精神で。

 自覚してしまった。


 俺、人間を殺したのか。


 胃の中のものを全部吐いてしまいそうになったけど。

 必死で耐えた。


 俺の矜持もあったけど。


 こいつに対する礼儀の様な気もしたから。


 百田鶴来は俺の剣をざっくり受けて。

 身体を斜めに深く斬り裂かれて、倒れていた。


 そして。


 俺はさっきうっかり、彼の顔を見たけれど。


 ……なんともなかった。


 だから、確信した。

 彼はもう、死んでいる。


 彼の死に顔は、安らかとは言えなかった。

 驚愕と、無念さに満ちていた。


 その顔を見て思う。


 本来は黒髪長髪で、高慢そうな顔つきの、女ウケの良さそうな男だったんだ。

 この男は。


 そして本来は、最高の伴侶を得て最高の人生を送るはずだったのに。

 こうなってしまった。


 ……俺はこいつのことを非難する気がどうしても起きなかった。

 こいつの語った全てを知ってしまった上では。


 こいつの気持ちは、俺も良く分かったから。


 けれど……


「……ありがとう」


 小鳥の久美子が、俺を労ってくれた。

 それに対して俺は


「……ありがとう」


 同じ言葉を返した。


 そして

 俺は倒れている百田の死体を一瞥し、心でこう言ったんだ。


 俺にも守りたいものがある。悪いな。


 ……そしてその場を立ち去った。




 原発を出ると。


 仲間たちがいて。


 真っ先に、久美子が抱き着いて来た。

 その目に涙を浮かべながら。


 それを俺は抱き返した。


「良かった! 良かったよ!」


 彼女のその言葉は嬉しかったし。

 俺も同じ気持ちだった。


 あのときのことを思い返す。


 ふたりで、百田を倒す算段を練り上げていたときを。




「あなた、あの技を使って」


「……あの技って?」


 百田の攻撃から必死で逃げ回っているときに。

 彼女にこう言われたんだ。


 最初、何のことか分からなかったけど。

 彼女に言われて、思い出した。


 十本目・改。


 元々ある、惑星軍式剣術十本目を改良した(つもりになってた)技。

 でも、あの技はキミが言った通り、欠陥品で……


 そう、主張しようとしたら。


「大丈夫。あなたは全力で技をやればいい」


 こう、彼女は言ったんだ。


「私が当てさせるから」




 俺が惑星軍式剣術十本目を改良しようとしなければこの勝利は無かったし。

 その致命的な欠点を克服する方法を彼女が考えつかなければ、同じく勝利はなかった。


 つまりこの勝利は、俺たちの合作なんだ。


 俺はその想いを強くして、彼女を抱きしめる。


 ……彼女のことを好きになれて良かったし。

 彼女が俺のことを好きになってくれて良かった。


 色々辛いことはあったけど。

 彼女と縁を結べたこと。


 これは俺にとって、何物にも代えがたい宝物だった。


「帰ろう……仕事は済んだんだし」


 そう、彼女の耳元で囁いた。


 彼女は無言で頷いてくれた。

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