第100話 2人の技
「久美子、これを渡しておく」
俺は小鳥の久美子に機械を渡した。
進美から託された機械を。
「……これは?」
訊き返す久美子に、俺はこう答える。
「一瞬だけ、アイツの注意を逸らせる可能性がある。ここぞというところでスイッチを入れてくれ」
そして俺は、その機械のスイッチの位置を教えた。
「……分かった。任せて」
そう言って、久美子はその2本の足を器用に使って機械を掴み、俺の肩から飛び去った。
~百田鶴来視点~
ボクは八相に剣を構えたまま、間合いを詰めていく。
藤井は居合腰のまま、動かない。
(さて、最後っ屁は警戒しないとな)
追い詰められたら、何をしてくるか分からない。
窮鼠猫を噛む。
他人をね、舐めてはいけないんだよ。
……彼女もそう言っていた。
ボクが彼女のために力をつけていたとき。
自分の力に酔って、低いところで足掻いている人々を軽く見る発言をしたら。
彼女に窘められた。
鶴来さん、自分より劣ってると思える人々が、決して何も成し得ないと思うのは間違いですよ。
あなたはすごい努力家で、才能もある男性ですけど、自分以下は価値が無いなどと思い上がった考えを持たないでください。
彼女は優しかったし。
ボクより遥かに人間が出来ていた。
そんな彼女を、この国は地獄に堕としたんだ。
……絶対に許せない。
必ず、終わらせる。
そして。
ボクが間合いを半径2メートル圏内にまで詰めたとき。
それが、来た。
藤井がこう叫んだ。
「惑星軍式剣術十本目ッ!」
惑星軍式剣術十本目?
当然、ボクは知っている。
ボクも惑星軍式剣術の使い手だから。
技の構成も、何もかも、全部。
いきなり何を言い出すんだこの男は?
……心理戦か?
十本目を宣言しておきながら、別の技を出すつもりだとか?
例えば逆袈裟からはじまる八本目だとか。
柄当てからはじまる七本目だとか。
何をする気だ……?
ボクは神経を集中する。
ひとつ、大きな疑問を覚えながら。
それは……もしそのまま十本目を馬鹿正直に出すのなら。
どうやって、最初の一刀……つまり、目を狙った横一文字の斬撃を出すつもりだ?
目を狙うんだ。
顔を見ないと成り立たないぞ?
そこが大きな疑問だった。
……藤井は……
大きく踏み込み、抜刀動作に入る。
ボクの目が、藤井の手と目付に注がれる。
藤井の手は、横の斬撃を示している。
そして目付は……
ボクの顔じゃない。
手元を見ていた。
……え?
論外だ。
戦いの目付じゃない。
……どういうことだ?
そして抜刀。
……恐ろしく速かった。
抜き放った一刀が、超速度でボクの顔面に迫って来る。
正確に、ボクの目を狙って。
藤井はボクの顔を見ているのか!?
そう思い、彼の顔を見て……驚愕した。
見ていない……
視線で分かった。
自分の刀を見ている……
それなのに、その剣先は正確にボクの目を狙って……!
どういうことだ!?
そのときだ。
ゾク……
背筋が寒くなった。
いる……!
藤井の後ろに、誰かいる……!
そして気づいた。
藤井の背後を飛んでいる、藤井嫁の使い魔と思われる鳥が、ボクを正面から見つめていることに。
そこで、ボクの脳裏に2つの情報が駆け巡った。
①念動力の射程は視界。
②そして使い魔は本体と視界を共有する。
そこから導かれる答え……
こいつら、ふたりとも念動力を使っている!
おそらく夫は自分の剣の速度強化と操作制御、そして妻はその剣の方向制御!
……戦慄した。
こんなことを、何故いきなり出来るッ!?
全力で躱そうとした。
余裕なんて無かった。
躱すことだけ考えた。
そのときだ。
キィィィィィィィン!
いきなり、ハウリング音が聞こえて来た。
馬鹿な!
このイヤホンは、マイクとスピーカーの調整は完璧で、ハウリングなど起きないはずだ!
なのに何故聞こえる!?
故障か!?
故障なのか!?
その混乱が、ボクの動きを一瞬止めたせいで。
剣先がボクの顔の上をなぞった。
目は潰されなかったが、頬の一部を藤井の剣先が斬り裂いた。
しまった!
藤井が踏み込んでくる。
そして大上段の斬撃を繰り出してくる。
恐ろしい速さ。
避けられない。
反射的に判断し、受ける選択をした。
そこで、思い出した。
獅子殺しでは斬鉄剣の斬撃は受けられない。
藤井の斬撃はボクの獅子殺しを真っ二つに叩き折り。
そのままボクの肩口から入って、脇腹に抜けるまで。
一刀両断にボクを斬り捨てた。
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