第99話 2つの頭
久美子が来てくれた。
この場面で。
俺の挫けかけた心が、再び動き出した。
彼女は言った。
「……状況を教えて。目の前のこいつが首謀者なの?」
囁き声。
だけど。
久美子の声なら聞き慣れている。
俺はハッキリと聞き取ることができた。
「そうだけど……キミはこいつを見ても平気なのか? 顔は見えてるの?」
思わず訊いてしまった。
無論声量は抑えたが。
すると、驚くべき返答が返って来た。
「見えてるけど……それが何か?」
なんだって……?
メデューサの魔力は、使い魔の視界を通すと消えるのか……?
伝説では鏡に映った像には魔力が籠らない、だったけど。
ここに居ないで、別の映像を間接的に見ているというところが、鏡越しで見ているのと同じだと扱われたんだろうか?
「アイツは
「うっそ」
俺がその情報を伝えると、久美子は思わず驚きの声を洩らした。
その声量にはヒヤヒヤする。
「ちょ、気をつけて」
「だって……活動期間考えたら老人で無いとおかしいでしょ! アイツどうみても20代前半だよ!?」
……そうなんだ。
顔を見れてないから分からなかったけどさ。
やっぱ若いのか。
……多分、メデューサが女の怪物だというのが効いてるんだな。
メデューサが老化するのかとか、ねぇよ、って意見が大半を占めそうだもの。
よぼよぼの老婆になったメデューサって、ありえなくない?
そういうところらへんから、不老、って能力もあるのかもしれないな。
「多分、それはアイツの魔力のせいだ。……アイツの魔力は、桃太郎と……」
次の言葉は、久美子も衝撃だったと思う。
「メデューサだ」
それで、全てを察したらしかった。
彼女は緊張感の籠った声音で、こう言った。
「そっか……アイツも、転写経験者なんだね。それにしても、とんでもない組み合わせ……」
ああ、俺もそう思うよ。
「アイツのスペック、詳しく教えて……」
「ああ、アイツは……」
俺たちは小声で、情報交換を開始する。
時間は無い。無いけど、やった。
ここには頭が2つある。
俺と久美子、2人の頭が。
~百田鶴来視点~
目の前で、藤井大河が独り言をブツブツ言い始めた。
相手は、肩にとまっている小鳥。
……どこから入った?
少し思ったが
……使い魔か? あれは?
思い直す。
しかしあんな使い魔、報告に上がってなかったが……
いや、ここは使い魔だと考えるべきだな。
藤井久美子の使い魔。
藤井久美子……平民の女だな。
学者の家系出身で、元々都立図書館の司書をしていた女。
学生時代の学業成績は優秀だった。そこまでは分かっている。
そんなのと、アイツは会話……いや、相談しているのか。
何をしたとしてもボクの勝ちは揺るがないと思うけど……
念には念を入れておいた方が良さそうだ。
殺そう。
ボクは獅子殺しを八相に構え、地を蹴った。
飛行能力を活用して、踏み込みの速度を増強させる。
そして袈裟掛け斬撃を繰り出す。
だけど。
その一撃を、藤井大河は全力で避けた。
戦闘を意識した動きでは無い。
ただ、全力で逃げたんだ。
……絶対に攻撃を受けたくない。
そのためなら、恥も外聞も無い。
そういう動きだった。
……往生際が悪いぞ。
四天王だろ、仮にもッ!
ボクは刀を構え、追い回す。
背を向けて逃げ回る藤井。
そんなことを一体どのくらい続けただろうか。
「……いい加減、諦めろ。でないと、ボクは帰るよ?」
ボクにとって、この戦いは大義のための
本当に避けられない、必須の戦いじゃない。
だからこの脅しは成り立つ。
ボクに帰られたら困るのは彼らなのだし。
そう、脅したら
藤井が、覚悟を決めたのか。
また、居合腰の姿勢をとったのだ。
やっと決めたのか。
……殺される覚悟を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます