第98話 誓約

 もう核燃料を運び出してるだって……?


「だったらアンタは何でここにいるんだよ!?」


 俺は思わずそう口走っていた。

 すると百田はこう言ったんだ。


「……それはこの惑星ホシに問うためさ」


 誓約うけいって知ってるかい?

 日本由来の呪術なんだけどね。


 実現性の厳しいミッションに挑む前に、何かを神に問い、そのミッションが成功したら「それは神の意思である」と扱う呪術なんだ。


 ……ボクは神に問うたよ。


 皇帝打倒を惑星ホシは許すのか?


 そのために提示したミッションは「単独での原発占拠の上、正面からの四天王の皆殺し」


 原発占拠は達成できた。

 あとは四天王だ。


 ……ここで待っていれば必ず四天王がやってくる。

 それを迎え撃ち、全員殺す。


 それが達成できたなら、これは惑星ホシの意思だ。

 つまり正義。誰にも文句は言わせない。


「なるほど……」


 俺は百田のそういう意図を聞きながら、立ち上がった。

 立ち上がり、斬鉄剣を鞘に納めて。


 居合腰になる。


「……待ちか。まぁ、悪くない手だね」


 それを見て、百田は俺をせせら笑う感じで言った。


 待ちで行くなら、相手の距離を測ることに神経が集中するので、顔を見ないでもまだいける。

 そういうアイディア。


 そう、思わせた。


 俺は


「動くなッ!」


 ……意思を込めた、洗脳の魔力を込めた声を発する。


 だが


「……洗脳は効かないよ。対策くらい打って来るさ。当たり前だろ?」


 冷笑混じり。


 俺を冷笑しながら、無造作な感じで近づいてくる。

 右手に獅子殺しを引っ提げて。


「いつ来るかと思ってたけど、ようやくか。……いよいよ、打つ手が無くなったというところかな?」


 俺はそれに答えず、右掌を百田に向けた。


 火炎放射。


 ……と、思わせて


 俺は、百田の死角の位置に、ハエモードから大男の姿を取らせて出現させた使い魔に、3方向から百田に向かってタックルを掛けさせた。

 集団による押さえつけ。

 その上で、念動力も駆使する。


 洗脳は囮だったんだ。


 だけど


 ヤツは呟いた。


「惑星軍式剣術九本目……」


 瞬時に、想起する。

 元になった技は、四方切り。


 それは一瞬の仕事だった。


 百田は左から来た使い魔の水月に、剣の切っ先を突き刺して。


 そこから引き抜き、振りかぶって右。真っ向から斬り下ろし。

 そこからさらに振りかぶり、背後の使い魔を斬殺した。


 ……本来は、一騎打ち状態で戦っているときに、3人の敵から横やりを入れられた場合を想定した技。


「……こっちが本命だったかな? 残念だったね」


 斬殺されて塵に還っていく使い魔たちをそのままに。


 こちらに向き直り、百田。

 ……その通りだよ。畜生……!


 実を言うと念動力も使ったんだ。

 使っても、使い魔たちが斬殺されるのを止められなかった。


 ……おそらく、こいつの筋力は俺より遥かに高い。

 ギリシャ神話のヘラクレスに匹敵するんじゃないだろうか?


 だから念動力で止めようとしても効かないんだ。

 桃太郎の魔力には、身体能力の向上もあるとは聞いていたけど。

 ここまでとは思わなかったよ。


 打つ手……無しだ……


 そのときだった。


「あなた」


 小さい声で囁かれた。

 ハッとした。


 久美子の声だ。


 どこだ、と思う前に。


 小鳥が俺の肩に舞い降りて来た。

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