第97話 30年越しの想い

 中性子爆弾だって!?


 久美子の話で出て来て、聞いた覚えがある。

 確か、核兵器の一種だ!


 あとでちょっとだけどういうものかを聞いたんだが……

 爆風の出ない核爆弾みたいなものらしい。

 

 けど。


 爆風が出ない代わりに、中性子線という光が出る。

 そしてこの光は通常の建物を貫通し、放射され。

 それを浴びた生物を悉く殺す。

 つまり、効果範囲に居る生き物は一切生きていられない。

 そういう恐ろしい兵器だ。

 

 だけど……


 俺は百田の猛攻を必死で凌ぎながら、久美子の実家で聞いた話を思い出す。


 核兵器は原材料が手に入ったからと言って、すぐ作れるものでは無い。

 技術もだけど、様々な製造機器が要る。


 ……それなのに……作るだと?


「本気で作れると思っているのか!? そんな単純なもののハズが!」


 俺が百田の斬撃を捌きつつ、その言葉を投げかけた。


 それを受けて百田は


「作れるさ!」


 また、笑いながら刀を振るう。

 百田は怒りと、自分の目的が達成されようとしている悦びか。


 自分の積み上げてきたことを喋り続ける。


「どれだけボクが積み上げてきたと思ってる!? 30年以上だ! 30年以上、ボクは中性子爆弾を作るための準備をしてきた!」


 喋りながらも、百田の斬撃の鋭さはいささかも揺るがない。


「古文書を盗み出して技術を手に入れた! 人も揃えた! 開発する場所も確保した! 機器も揃えた!」


 そして俺の目を狙った真横一文字の斬撃が来た。


「全部揃えた! だがひとつ、ウランだけが足りない! ずっと待っていたんだ!」


 俺はその斬撃を躱すためにバックステップする。


「この国がウランを掘り出すのをッ!」


 百田は踏み込んで来た。

 踏み込んで、大上段の斬撃を繰り出そうとしてくる。


 ……あ


 俺はこの技を知っている。

 いや、知ってて当然だ。


 惑星軍式剣術の技なのだから。


 そして、それは俺が一番気に入っている技。


「喰らえッ!」


 ――惑星軍式剣術十本目。


 元になった技の名前は「虎乱刀」


 そして百田の剣は俺の胸を斬り裂いた。




「……終わりかな。勝負あった、だろ?」


 百田は笑いながら俺を見つめているのだろう。

 顔が見れないから確証が持てないけど。


「勝手に決めないでくれ。俺には妻も子供も居るんだ」


 そう言った。

 時間が欲しかったから。

 会話を引き延ばすため。


 床に片膝を突き、自分の状態を確認する。

 傷は……幸いそれほど深くない。

 よく知ってる技だったからか。


 百田は俺の言葉を受けて、話しだす。


「知ってるよ。羨ましいね。でも……」


 元々の剣の腕に開きがあり、加えてキミはボクの顔を見ることが出来ない。

 相手の顔を見ながら戦うのは戦いの基本だ。それを禁止されてまともに戦えなくなってるよね?


 ……それはその通り。

 戦う場合、自然と相手の顔を見てしまう。

 それを禁止されるのは、恐ろしくキツい。


 元々、まともに戦って勝てるかどうかが怪しい相手なのに。


「中性子爆弾を使えば、本当に皇帝陛下を害せると思っているのか?」


 俺がそう振ると、百田は嬉々として返して来た。


「2000年以上前に、原材料が無いせいで存在しなくなった兵器の備えなんてしてると思うか? それにだ」


 ボクの知る限り、中性子爆弾の攻撃を無効化できた神話の登場人物は居ないね。

 つまり、皇帝を中性子爆弾の効果範囲に巻き込めれば、確実に暗殺できる!


 ……なるほど。

 それはまずいな……!


 そして


 そんな俺の焦りを、百田の次の台詞が極大まで拡大させた。

 笑いながら、ヤツは言ったんだ。


「ちなみに……原材料になる核燃料はすでに運び出してるよ」


 なん……だって?

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