第94話 桃太郎の男

 あの男は何なんだ!?

 その目的は何なんだ!?

 本当に皇帝陛下の退位が目的なのか?


 俺の印象は「一切が不明の不気味な男」だった。


 使い魔越しの映像だったけど。

 俺はそういう印象を受けた。


 そして……


(何故か、使い魔越しに念動力を使って取り押さえるという発想が出なかった)


 それをやると、詰む。

 そういう予感があったんだ。


 こういう予感には従った方が良い。

 俺はそう思っている。


 原発内部に突入し、俺は走った。


 ……思えば、俺は魔力を得てから。

 誰にも負けたことが無かった。


 そしてそれは俺の実力では無く、魔力のお陰だと思えて。

 いくら頑張っても、自信が付くことは無かったけど。


 そこで四天王に選ばれて、辛いこともあったけど、俺を愛してくれるひとが現れて。

 そして今がある。


 ……予感だけど。

 この先に待つ相手は、恐ろしく強い。


 俺の持つ魔力の強さを考慮しても、だ。


 以前の俺なら、多分戦うことを躊躇していたはずだ。

 勝つ確証が無い戦いだから。


 でも……


 今の俺は、それができなかった。

 託されたから。


 信じて貰えたから。


 そして……


 俺は辿り着いた。


「おい……降伏しろ」


 そこはちょっとした広場。

 広場の大部分が、プール。


 まだ、中には何も沈んでいない。


 核燃料の使用手順は詳しくないから、よく分からないのだけど。

 いつかここに核燃料が沈められるんだろうか?


 そのプールの水面を眺めていた長身の男は、振り返り。


 こう言った。


「……キミが藤井大河クンだね。はじめまして」


 男は般若の面を被っていて。

 こう続けたんだ。


「ボクの名前は百田鶴来ひゃくたつるぎ。赤い牙のリーダーだ」




 百田鶴来……。

 テロリストの名前は業務上勉強しなきゃいけないから俺は知っていたけど。


 こいつか……桃太郎の魔力保持者のテロリスト。

 そして……元華族。

 華族に生まれながら、地球帝国打倒のための組織を動かしている男。


 俺はこの男を生で見て、違和感を覚えていた。


 それは


 こいつはもう50年も赤い牙のリーダーをしている男だ。

 つまり老人のはずなんだ。


 なのに……


 こいつの声……すごく若い。

 何故だ……?


 それが桃太郎の魔力の効果なのか?


 でもそれは、変だろ。

 桃太郎と不老は関係ないし。


「……本当に百田鶴来なのか?」


 偽物かもしれない。

 その思いが湧いてきて、俺は訊いた。


 すると……


「表に放した無数の魔物たちを見ても、説得力は無いかな? まぁ、アレは下げ渡しが出来るから、証拠にはならないか」


 そう言って笑った。とても爽やかだった。

 俺はそこで決断する。


 百田に向かって突っ込んでいく。

 間合いを詰めて、そして抜いた。


 抜いて、百田に逆袈裟切りを繰り出した。


 斜めの斬撃。


 ……殺すつもりだった。

 そうしないといけないと思ったから。


 表の石化した国防軍兵士たちが、こいつの仕業なら、殺るしかない。


 それに。


 そうしないで勝つことは、不可能である。

 俺が肌で感じたことだ。


 だが


 百田はその斬撃を、後ろに飛んで


 いや、飛翔して躱したんだ。


 ……え?


 何故飛べる?

 桃太郎だろ?


 桃太郎の物語に、どこに飛行能力を伺わせる記述がある?


 俺はプールの上に静止して佇む百田に、呆然とした視線を向けた。


「……斬鉄剣。神話認定されている某有名作品に登場する、斬れないものがほぼ無い刀の贋作だっけ? 本物と遜色ないレベルの。まぁ、創作の話だけどさ」


 百田はハハハ、と笑いながら言った。


「そんな刀の斬撃は、避け一択だよ。受けたら刀ごと斬られるし。厄介厄介」


 言いながら。

 百田は、腰に吊り下げた刀を抜く。


 そしてそれを空中で、脇構えに構えた。


「……キミも惑星軍式剣術を使うんだね。まぁ、よっぽどの偏屈以外は常識的にそうなんだけどさ」


 そして


「良いこと教えてあげるよ……ボクは惑星軍式剣術の仕合で、負けたことがただの一度も無いんだよねぇーっ!」


 その言葉を吐くと同時に、脇構えのまま、ものすごいスピードで百田が突っ込んで来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る