第93話 先に行け!

「こいつらがこれをやったのか?」


 思わずそう口走った。

 だけど


「……いや、それは無いよ」


 即座に久美子に否定された。

 言って、周りの石像たちを手で示す。


「コカトリスは1度に1人しか石化させられない。でも、この人たちは同時に、一気に石化させられてる」


 ……言われて俺は石像を再度確認する。

 確かに、同じ方向を見て石化しているようだ。

 この石像たち。


 これがコカトリスなら、石像はもっとバラバラの配置になっているはず。

 ありえない。


 ……ついでに言えば、バジリスクでもないな。

 あれも石化手段が嘴から視線に変わっただけで、1回で石化できる対象が1体であることは変わらんし。


「じゃあ、どういうことなの?」


「……石化能力を持つ魔力保持者……?]


 翔子さんの言葉を受けて、進美が言った。

 うん……それは俺も考えた。


 だけど……


「そんなことはありえないわ。そんな強力な魔力保持者なら、国が把握してる。陛下への転写の構成を決めるとき、一体何を題材に会議していると思っているの」


 そう。

 おかしいんだよな。


 国が知らないはずは無いし。

 そんな魔力保持者がいるなら。


「でも、そうでないとおかしいだろ」


 進美は自分の意見を曲げなかった。


 そして


「……オイ。無駄話をしている時間はねぇぞ」


 魔物3体が興奮している。

 活きのいい獲物がたくさんいる、ってものなのだろうか。


「ここはオレたちに任せろ。なんというか……首謀者をノンビリ仕留める余裕が無い気がする」


 そう言って、進美は手持ち武器として、持ってきた手斧と、爆発物を構える。

 久美子はドラゴンキラーを。

 翔子さんは短剣を2本、腰の後ろの鞘から抜き放つ。


 そして言った。


「……藤井くん、私も同意見。あなたが1人、先に行きなさい」


「ここは任せて。私たちだけで大丈夫だから」


 翔子さんと久美子。

 2人の言葉。


 そこに


「大河」


 進美が俺に、何かを投げた。


 それは、掌に収まる機械だった。

 スピーカーのついた小さい機械。


「もってけ。役に立つかもしれねぇし」


 俺は……


 頷いた。

 そして、駆け出す。


 なんともいえない不気味さを感じたから。

 堅実に時間を掛ける余裕はない、とも。




 俺は走りながら、使い魔を飛ばして原発内部を徹底的に探る。

 探って、探した。


 首謀者を。


 そして……


「見つけた」


 使用済み核燃料を一時保管するプールか?

 大量の水が湛えられたプールの前に。

 人が居たんだ。


 軍服の様な黒い服に身を包んだ、長身の男。

 男は、般若の面を被っていた。

 そして腰に、一振りの日本刀を吊るしている。


 ……他の人間は逃げたのか、殺されたのか。

 はたまた、石になったのか。


 誰一人、居ない。

 こいつだけが居る。


 ……待ってろ!


 俺は妻と仲間たちに、こいつを討つことを託された。

 絶対に、やるんだ。


 ……俺は信じて貰っているんだから。

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