第92話 3体の魔物

 国立原子力発電所。


 ろくろのような建造物が象徴的な、国の施設だ。


『国立原子力発電所』


 正門の門柱に、そういう看板が掛けられている。


 そして……


「なんだこの石像……?」


 原子力発電所の前に、石像があった。

 たくさん。


 ……全員、軍服を着ていた。

 地球帝国の。


 ……石化?


 敵に石化能力を持つのが居るのか?


「これって……」


 俺は翔子さんに呼びかける。


「ええ……これは石化ね」


 石化現象。

 実は原理はよくわかっていない。


 人類が初めて遭遇してからすでに2000年以上経ってる現象なんだけどね。

 その影響を受ける条件を満たした生物の、全存在を石に変換する。


 これは科学的な現象ではなく、呪いなんじゃないのかという学者も居るんだけど。


 実際どうなんだろうな。


 ……まあ、そんな悠長なことを言ってる場合じゃ無いんだよな。


 石化能力って言うと……


 コカトリス、バシリスクがパッと出てくるけど。


 コカトリスは鶏と蛇を合体させたような姿をした魔物で。

 大きさは3メートルくらい。

 その嘴で一撃を加えた相手を、問答無用で石化させる。

 例外は彼らが餌にしている植物で、それだけは石化されない。

 なので、コカトリスは遠距離攻撃で仕留めるか、その餌になる植物から作った布でコーティングした防具を身に着けて挑むのが基本。


 あともうひとつがバジリスク。

 こっちも同じくらいの大きさで。その姿は足の数が8本あるワニ。

 こいつの場合は視線。こいつから数秒間、視線を浴びてしまうと石化する。

 回避するには盾を用意する。これのみ。

 盾で姿を隠すんだ。

 鏡を用意してもいいが、視線を浴びてもコイツ自身は石化しない。

 何故なら、コイツは石化の呪いが完成する前に、視線を切るからだ。

 ちなみに、全身を戦闘服で覆い、真の姿を見えなくするというやり方は無意味。

 こいつの視線による石化の有効範囲は、個人を認識するレベルで視線を浴びせる、なので、素顔が見えているかどうかは関係ないんだな。


 そしてこれが科学的な現象では無いのではないかと言われている根拠なんだけど。

 それは、石化攻撃を受けた本人だけでなく、身に着けていた道具類まで石化するということと。

 石化させた相手の命を絶つと、被害者が回復する。この2点からなんだな。


「……赤い牙はリーダーの魔力の関係で、魔物を兵器に転用することが可能なんですよね」


 久美子の言葉。

 そう、そうなんだ。

 ……だから、あのときヒュドラを嗾けて来たんだよな。


 そのときだった。


 コケーッ!


 ゴオオオオッ!


 グルルルッ!


「何か来たぞ!」


 進美の警告で、俺たちは身構えた。


 原発の奥から、3体の魔物が突進してくる。


 1つは、鶏の身体に、蛇の尻尾を持つ魔物。

 先ほどの話題に上がった、コカトリス。

 この石化の惨状は、こいつがやったのか?


 そしてもう1つは、岩石の皮膚を持つ巨大なゴリラ。

 色は緑。体長は4メートル。

 一般には岩猿と呼ばれる魔物。正式名称は、ストーンエイプ。

 単独で生きるタイプの魔物で、縄張り意識が強く、俊敏で狂暴。

 そういう危険な魔物だ。


 最後の1つが、3つの頭と鬣を持つ狼。体毛は白。その尾は蛇。

 体長は5メートル。

 頭が3つあるのは伊達でなく、その3つが全て頭の機能を持っているという。

 普段は1つだけが起動している状態で、それが潰れると別のもう1つが頭の機能を引き継いで、その生命を維持するんだ。

 なので、こいつを殺すには頭を3つとも潰すか斬り落とさないといけないという。

 名前はケルベロス。別名、地獄の番犬。


 ……こいつ、ファイアブレスを吐く能力もあるんだよな。


 そんなことを考えながら。


 こいつらがやったのか?

 そう、考えていた。

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