最終章:自分が守らなければならないもの

第91話 そんな馬鹿な

 そしてまた、だいぶ時間が経った。

 俺たちの長男は学校にそろそろ上がるかどうかが見えてきた。

 妻の久美子は「そろそろ2人目を作ろう」って言うんだけど。

 やっぱ、社会への貢献を考えるなら2人以上作るべきなのかね?

 俺は、今の生活に何の不満も無いんだよな。

 いやま、久美子の言うことに不満があるわけじゃないんだけどさ。


 ただ、子供が増えると責任が増えるし。

 そうなると、今の幸せを維持できるんだろうかという強迫観念がある。


 ただでさえ、転写の仕事でスタートから俺は3人子供がいる状況なんだし。

 いやま、うち1人は小石川家が完全に責任を持つから、実質2人かな。


 ……ああでも、久美子には関係の無いことだよな。これ。




「とうとう、原子力発電所が出来たんだよね」


「もう2か月も前の話だろ」


 俺たちは食堂で昼食を取りながら会話していた。

 トレイに乗ったメニューを口に運びながら話し合う。


「なんだか、数年がかりの仕事だったから、感慨深いものがあったけど」


「まぁね」


 ……なんかなあ。

 単に暴れたいだけなのか。

 騒ぎたいだけなのか。


 原発を作るという話が発表されたとき。

 ほとんどの人は諸手を挙げて賛成したけど。


 一部反対する人もいて。


 何言ってんだ? って感じになった。

 2000年以上の、まだ技術進歩が未熟だった時代の話を持ち出して。

 危険だ、危険だの大声アピール。


 まあ、誰も聞く耳持たなかったんだけどな。


「なんだかなぁ……」


 みそ汁を啜りつつ


「正義を気取るためなら、2000年以上前の大昔の話題を持ち出す人っているんだな」


 そう、正直な感想を口にした。


 口だけならまだしも。

 ちょっと前には、ガチでテロを起こしたヤツがいたし。


 ……まあ、口実なんだろうけど。

 あのテロで俺たちを誘き出して、対策打った状態で撃破するのが真の目的だったみたいだし。


 そんなことを思いながら、焼き魚を骨も残さず食べ尽くしたときだった。


 食堂で見ていたテレビで放送していたニュースが、騒然となったんだ。

 何が起きたのか?


 それはすぐに分かることになる……


『緊急ニュースです。……国立原子力発電所が赤い牙に占拠されました』


 ニュースキャスターが真っ青な顔で、渡されたニュースを読み上げる。


 ……え?


 考えられない。


 あそこって、国防軍の精鋭が常時警備してるんだろ?

 それがやられたのか? 嘘だろ……?


 驚き過ぎて、俺は持っていた箸を落とした。


 向かいの席に座っている久美子も、お茶を淹れたカップを持ったまま、硬直している。


『彼らは皇帝陛下の退位と、政権の明け渡しを要求しています。政府が現在対応中、とのことです……』


 ……なんだって?


 その後。

 俺たちに出撃命令が下ったんだ。


 当然のことだけど。

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