第90話 必殺技の概念

 洗脳は、声を電子機器に通すと効力が無くなる。

 もし電波に洗脳の魔力が乗るのであれば、強力無比な魔力なんだけど。

 効力があるのは、あくまで生の声なんだ。


 だから、ヘルメットの内部にマイクとスピーカーを仕込んでおき、外の音を全部電子音声の形で聞く形にしておけば、洗脳の魔力保持者の魔力が籠った声を聞いても洗脳されない。

 これが実現する。


 ……洗脳のからくりを知り尽くしたヤツが、対策立てて来てるな。

 赤い牙か……主張していることはメチャクチャで、他責思考のクズどものはずだけど。

 決して侮っていい相手じゃ無いぞこれは……!


 俺は戦慄した。


「……私のところにもヘルメットが来たから、教えないとと思ったから、この子を飛ばしたの……」


 そう、鳥使い魔の久美子が言った。

 なるほど……


 その心遣いには感謝するよ。


「でも、私が来るまでも無かったみたいね」


 自力で辿り着いちゃったみたいだし。

 佐倉さんが。


 ……そうはいうけどさ。


「……意味の無かった善意は感謝しなくていい、ってもんじゃないだろ」


 そう言って。


 視界内にいる黒づくめたちのヘルメットを、俺は念動力で力任せに脱がせた。

 そして


「お前ら無力化!」


「オレに従え!」


 ……俺と進美の声が、見事にハモった。




 最後の首を切断されて。

 その切断面を熱処理されたために。


 ヒュドラがその巨体を重々しく横倒しにした。

 地響きすら感じさせる勢いで。


 ……なんとかなった。


 黒づくめの横やりが入らないなら、こいつはただ面倒なだけで、倒せない相手ではないからな。


「おつかれー」


「お疲れ様」


 鳥使い魔状態の愛妻と、進美が俺を労ってくれた。

 俺は


「ありがとう」


 そう礼を言って、頭を切り替える。


 この場に居る、3人の男たち。

 赤い牙の戦闘員。


 この山にどのくらいいるのか。

 どこから来たのか。


 引き出さないといけない情報はたくさんある。


「私の方はもう拘束済みだから安心して」


 そんな久美子の言葉を聞き、俺は男たちに立ち上がる様に命じた。




「なぁ大河」


 王城で、先日の山での仕事の報告書を上げた後。

 所用を済ませ、廊下で並んで歩いていたら、進美が俺に話し掛けて来た。


「……何だ?」


 俺は内心進美の話す内容に予想はついていたけど。

 普通に彼女に返す。


 すると、彼女はこう言った。


「オレの魔力の仕組み……何でバレてたんだろう?」


 そのことだよな。

 

 それについては、俺も思うところがあった。


 ……俺は、昔聞いた受け売りを話す。


「……武術における必殺技の概念って、知ってるか?」


「必殺技……?」


 言って、俺は頷いた。


 そしてこう続けたんだ。


「どんな素晴らしい技でも、1回使い見られれば攻略法を考案されてしまう。そうなると、必殺技足りえない」


 ……道場に通っていたとき。

 魔力を得て最強の門下生になって、そのとき道場の師範に言われた言葉だ。


 必殺技を考案したら、無暗に使うな。

 そういう意味合いの言葉だ。


「だから、必殺技は使いどころを考えろ。そういう話」


 進美は俺の話を黙って聞いている。

 俺の言わんとすることにまだ気づいてはいないみたい。


 ……俺はそこで一拍置き。

 俺の思うところを口にした。


 進美は俺のその言葉を聞き、ハッとした表情になった。

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