第89話 明らかになったからくり

「ワリィ……藤井」


 男の腕の中で進美が謝っている。俺に。

 いつもの強気な表情は消え失せ、弱々しい姿。


 俺はそんな彼女の様子をじっと見ていた。


「その場を動くな! 動いたらこの女を殺す!」


 ……俺は……


 迷わず念動力で男の拳銃を奪い取った。


 いきなり武器を奪われて、男は固まっていた。

 何が起きたのか分からないのか。

 その瞬間、進美の表情が豹変し。


 スルスルスル、と男の腕から抜け出して。

 その背中をよじ登る。

 まるで軽業師だ。サーカスの。


 そして


 手首に嵌めている腕輪からしゅるるとワイヤーを引っ張り取り出して、その男の首を絞め始めた。


「ぐおおおおおお……」


 ……だよな。

 お前の表情、100%演技だと思ったよ。

 お前が拳銃で怯えるはず無いもの。


 例え、俺の助力無しではどうしようもない状況だったとしても。


 進美がああなったということは、あのヘルメットにも洗脳が効かなかったということか。

 効くのであればあんな事態に成り得るはずが無いし。


 ……じゃあ、多分偶然では無いよな。


 こんな偶然が2回も続くはずがない。

 つまりこれは必然なんだ。


 こいつら、何らかの方法で洗脳を逃れる術を身に着けている。


 なんだそれは……考えろ……!


 そのときだった。


「大河! 危ない!」


 俺の頭の上から。

 ……聞き覚えのある声がした。


 反射的に飛び出す。


 ジャアッ!


 ……また、毒液が俺の居た場所にぶちまけられていた。

 煙を上げ、そこを溶かす。


 俺は受け身を取って身を起こし、その様子を確認した。

 そこにさらに


「……危ないところだったわね」


 ……俺の上から降って来たその声の主は。

 鳥だった。……インコか?


 で、その声音は……


「久美子……」


「はい。その通り」


 久美子の声で喋るインコ。

 そう形容するべき存在。


 一緒に暮らしていて、聞き続けている声だ。間違いがあるはずがない。

 これは……おそらく……


 彼女の「使い魔」だ。

 また新しい、使い魔の変形なんだ。


 彼女は言う。


「この形態だと、ハエより射程は少し短くなるけど、声を出せるから」


 通信に便利なのよ。

 彼女の談。まぁ、確かに。


 そして


「で……と」


「大河ー!」


 インコ久美子が俺に何か言おうとした。

 したんだけど、その前に。


 進美がこっちに向かって大声で言って来たんだ。

 握りこぶしを振り下ろしながら、力一杯の声で。


「こいつら被ってるヘルメットにマイクとスピーカーを仕込んでやがる! だから洗脳が効かないんだ!」


 そう大声でこちらに重要な情報を伝えてくる進美の横には……

 ヘルメットを脱がされて、ゆらりと立っている黒づくめの男がいた。

 まるで自分の意思が無いような、そんな感じで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る