第88話 絶体絶命

 シャアアアア!

 

 9頭の大蛇が吼え、その巨体をうねらせて俺を威嚇していた。


「ヒュドラ! この卑しい皇帝のイヌに毒液を浴びせてドロドロにしてやれ!」


 ヘルメットの男たちがヒュドラに命令を出す。

 男たちの命令を受け、ヒュドラがさらに大きく吼えた。


 ヒュドラの頭は9つ。

 つまり、毒液の発射口が9つあるってことだ。


 しかも、液体。


 ……回避が恐ろしく大変だ。


 まずい。

 数を減らさなければ。


 俺は跳躍し、ヒュドラの頭のひとつに接近し。

 近接し間合いに入った瞬間、抜きつけた一刀で、その首を切断した。


 シャアアア!


 斬鉄剣の斬撃で、綺麗に刎ね飛ばされる首。

 ……だが。

 これではまだ不十分だ。


 着地した俺は左手を構え、ヒュドラに向けて火炎放射を繰り出した。

 そしてその出血している切断面を、焼く。


 キシャアアアア!

 熱ダメージで、ヒュドラが吼えた。

 暴れ、悶える。


 斬首の後に火炎攻撃。

 ……こうしないと、傷口からすぐに生えてくるのだ。

 しかも、2本。


 つまり毒液発射口が、増える。


 それを防ぐのが、これ。


 切断面を焼く。

 およそ200度以上の温度で、90秒以上焼く。

 それで、ヒュドラの再生能力が死ぬ。


 これを、9つの首それぞれに繰り返さないといけない。


 ……非常に厄介な魔物だな。


 焼いてる間は、その熱でヒュドラは毒液を吐く余裕が無いみたいだけど。

 焼かれるのに慣れたら、反撃してくる可能性がある。


 ……その前にカタをつけないと。


 焦る。

 焦る俺は。


 ドシュ、という発射音に気づくのが遅れた。


 ……横からロケット弾を撃ち込まれた。


 爆発。

 衝撃。


 吹っ飛ばされる俺。


 中断される火炎放射。


 ……熱処理が足りなかったのか、切断面から2本の首が生えてくる。


(……まずい)


 素早く身を起こしながら、状況を把握する。

 これはいかん。ドツボだ。


 熱処理する間は、俺の動きが止まるから、ロケット弾のいい的だ。

 喰らっても無傷だけど、熱処理が中断されてしまう。


 そのためには、まず人間の戦闘員を黙らせないと。


 ……殺すしか無いんだろうか?

 あの、洗脳が効かない男は。


 俺たちは皇帝陛下の剣。

 あいつらもまた国民なんだ。

 だから殺人は避けたいが、やむを得ないならするしか無い。無いのだが……


 俺はまだ、殺人経験は無い。

 俺は魔物しか斬ったことが無いんだ。

 できるのか、俺に……?


 そんな風に、悩んでいるときだった。


「動くな藤井!」


 さらに別方向から声が飛んで来た。

 振り向く。


 そこには……


 進美を片腕で抱いて拘束しながら、その頭に拳銃の銃口を突き付けた黒づくめの男がいたのだ。

 こめかみに拳銃の銃口を押し付けられた進美は、真っ青で怯えた顔をしていた……

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