第87話 突如やってきた危機

「お前ら誰だッ!? 赤い牙の奴らかッ!?」


 ロケット弾だ。連打はできるはずがない。

 俺は距離を詰めながら、斬鉄剣の鯉口を切り、抜く準備をしながら。


「無力化しろッ!」


 目の前のヤツに向かって、意思を込めた声を発する。


 ……一番楽なのが洗脳だからな。

 他人の目も無いし、躊躇する理由が無い。


 だけど


「藤井大河! この劣った皇帝制の番犬めッ!」


 ……何故か効いていない。

 どういうわけだ?


 目の前のヘルメットは、俺の声を浴びても、平気で拳銃を抜いて射撃してきた。

 ……明らかに俺の目を狙いながら。


 慌てて手でガードする。

 俺の手に当たった銃弾が、弾かれて地面に落ちていく。

 銃弾を当てられた痛みはあるが、俺の手はなんともない。


 そんな風にガードしながら、混乱していた。


 何故だ? 何故効かない?


 ……進美は言っていた。

 皇帝陛下には洗脳が効かなかった、と。


 こいつがその、数少ない「洗脳が効かない人間」なのか?


 どうなんだ? 分からない……!


「死ねッ!」


 続いて木の陰から、目の前の男と同じ格好をした別の男が飛び出してきて、俺に向かってショットガンを撃って来た。ドンという発砲音。

 散弾が飛び散って飛来する。


 俺は全力で目を庇った。


 当然、視界がゼロになる。


「くたばれッ!」


 男はショットガンの空薬莢を排出し、続けて撃とうと行動している。

 チャキっていう、ポンプアクションの音がしたからね。

 一発では諦めないということか。

 弾切れになるまで撃つつもりか。


 だが俺は、この選択をミスだとは考えていなかった。

 自分の肉体の無敵性に胡坐を掻いていたのかもしれない。


 その隙に、来た。


 気配を感じるのが遅れたら、ヤバかった。


 直感で危険を感じて、その場を大きく跳んだんだ。

 そのときだった。


 紫色の液体が、俺がいた場所に降り注ぎ。


 その場を溶解させた。


 シュウウウウ、という音と、刺激臭が鼻をついた。


 ――毒液!


 シャアアアアアア!!


 爬虫類特有の呼吸音を立てながら、巨大な何かが近づいてくる。

 ……それは巨大な何かが這う音。


 それは、大蛇だった。

 ただの大蛇では無い。


 頭が9つある大蛇。

 灰色の鱗に覆われた、多頭の蛇。


 大きさは6メートルはあっただろうか。


 こいつの名前は、俺が辺境警備隊に居たときに、一般常識として勉強したので知っていた。


「……ヒュドラ……か」


 猛毒を吐き、その血液も猛毒。

 毒の化身の化け物だ。


 俺には物理攻撃も火炎攻撃も効かないから、銃火器の類は一切通用しない。

 だけど。


 ……毒液だけは別だ。


 俺の緊張感が跳ね上がる。

 こいつは俺にダメージを……いや、命を奪える可能性がある。

 だけど……


 絶対に勝たないといけないし。

 

 絶対に死ぬわけにもいかない。

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