第86話 山火事で

 北海山。

 また、ここに来ることになるなんて。


 結局、掛かって来た電話は呼び出しの電話で。


『藤井さん、招集命令です』


 ……案の定だったので、暗澹たる気持ちになった。




 山に行く前に、翔子さんから仕事の説明を受けた。


「山火事は消防隊員が消すので、私たちはユニコーンの救助が仕事よ」


 ……相手人間じゃ無いけど、さすがにこの状況で「やつらは人間じゃ無いから助けなくていい」は無いよなぁ。

 やったの、人間のテロリストなわけだし。


 だけど


「でも、この中で進美だけ耐火能力無いですよね。進美が来る理由ってなんですか?」


 それが分からなかったから、訊いた。

 進美は仲間だけど、山火事の現場に役立つ技能を持ってるかと言われると……正直微妙なような。


 だから、留守番が妥当なんじゃないかと思ったんだ。


 すると驚くべきことを言われた。


「彼女は産休育休に入ってる間に、魔界語のリスニングを習得したのよ」


 ……え?


 思わず彼女を見た。

 仮面をつけているけど、ドヤ顔しているように見えた。


 ……どうやったんだ?

 抱っこのときか?


 それぐらいしか考えられない。


 それとも、ベビーシッターを雇いまくって、時間作って頑張ったか。


 なんにしろ、大したもんだ。


「……オレの魔力は、魔界語が使えた方が有利だって、教えてもらったしな。久美子に」


 そう、彼女は呟くように言った。




 俺と進美、久美子と翔子さん。

 二手に分かれて、ユニコーンを探す。


「なぁ」


 俺は一緒に走りながら、俺は進美に話し掛けた。


「なんだよ?」


 進美はそう、ぶっきらぼうな感じで返して来た。

 俺は


「俺のところの子供は、幼児番組の見るようになったんだけど、そっちはどうなの?」


 そう言った。

 すると


「……オレのところも、ニチアサには夢中になってるよ。いつまでそうなのかは知らんけど」


 そんなことを返してくれた。

 ……そうか。


「そっか」


 それだけ、返した。

 俺は関われないからな。基本的に。


 そんなことを思って一緒に走っていたら。


「いたぞ……ヨウ ジーオ ウット イス!」


 ユニコーンを見つけたので、進美が走り出して話しかけた。

 ……ちゃんと通じてるみたいで。


 やるなぁ……




「ジーオ ウット イス」


「ギャアザ ジーオ」


 ……話がまとまったらしい。

 進美は次に行くためか、走り出そうとしたが


「マセル セボン ジョウド」


 ユニコーンに呼び止められた。

 ……一体何を言われたのか?


「……何て言ってんの?」


 気になったので聞いたら


「背中に乗れって言われた」


 ……マジか……!

 まあ、誤解が解けているから別に変でもないんだけど。


 進美は少し戸惑っていて


 よじよじ、と登ろうとした。

 ユニコーンの背に。


 ……非処女の女が、ユニコーンに乗る。

 この惑星ホシでないと見れない光景かもしれない。


 そして、進美がユニコーンに跨った瞬間だった。


 ……飛来音を聞いたんだ。

 風を切る音。


 俺の中で、警鐘が鳴った。


「危ないッ!」


 俺は動いていた。


 ……ギリギリ、間に合った。


 ロケット弾が飛来していた。

 それは進美を狙っていて。


 俺がその前に割り込んだ。


 直撃する。


 爆発、爆風。


 吹き飛ばされて、ユニコーンに衝突する。


 ……俺は身を起こした。

 無事。痛みはあったけど。

 ……まあ、予想はしていたけどね。

 確証は無かったから試してはいなかったけどさ。


 俺はロケット弾の発射元を見た。

 そこには、黒づくめで金属製の円筒を肩に構えているヘルメット姿の男の影が。


(……あいつか)


 敵を認識した俺は、腰の刀に手を当てて飛び出す。


「進美! ここは任せろ!」


 そう、言い残して。

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