第85話 お前ら単に暴れたいだけだろ

「動物園に行きましょう」


 それは、久美子の言葉が切っ掛けだった。


「何故動物園?」


 俺は息子を抱きながら、彼女の言葉に返答する。

 彼女は腰に手をあてて仁王立ちでこう答えた。


「だって、この子のために私たち何もしてないじゃん」


 ……そう言われると。

 俺たち、ずっと仕事ばっかりで、保育園に預けっぱなしの気がするな。


 自分の子供時代を考えると、自分がされたことをこの子にしてあげられているだろうか……?


 なんか、自信無いわ。


 なので


「分かった。次の休みに行ってみるか」


 そう、決めたんだけど。




 そして、休みの日がやってきた。


「どうぶつえん、どうぶつえん」


 息子が大喜びしている。

 動物園がどういうものかは分かってないと思うけど。

 親が一緒に居てくれるのが嬉しいのかね。


 それは俺も嬉しい。


 ……ここでふと、進美のところの子供……名前を聞いたら和美かずみらしいけど……のことを思った。

 思ったけど、打ち消した。


 ……進美に任せるって決めたことだし。

 進美ならキチンと育ててくれる。


 俺が出張ると、色々グチャグチャになる。

 考えたら、ダメなんだ。


 そう思い、頭を振ったら。


 つけっ放しにしていたテレビが、緊急ニュースを流して来た。


『番組の途中ですが、緊急ニュースが入りました。北海山に山火事が発生しました。この件に関し、赤い牙が声明を……』


 なんか、不穏なニュース。

 北海山は、原発建設予定地の近くにある山で、俺と久美子がマンティコア狩りに出向いた山だ。

 華族の住宅建設予定地。


 そこで山火事が発生した。

 しかも、原因はテロリスト。


 ……なんでも、原子力発電所建設反対、抗議の意味を込めてロケットを北海山に撃ち込んだらしい。


 ……なんだいそりゃ。

 そもそも、原発建設反対という主張の意味が分からない。

 原発が問題だったのは開発初期の、まだ「トイレの無いマンション」とかいう別名を貰っていた時代だけの話で。

 そこが解決されてからはずっと鉄板の電気エネルギー確保手段だったって学校で習ったろ。

 むしろ現在の火力発電メインの状態がおかしいんだ。安定供給を考えるなら、原発に切り替えるべきだってのは子供でも分かる理屈だ。


 まあ、原発は事故が起きると回復に掛かる手間は尋常じゃ無いのは認めるけどさ。

 そこも、学校で習ったし。

 でも、そういう問題も込みで、問題は解決されているのよ。

 色々と積み重ねてさ。


 心理的瑕疵の問題も華族の人たちが近場に転居することで、けじめつけてるじゃん。

 何が問題なのよ。


 ……まあ、単に政府に敵対して、破壊活動をしたいだけなんだろうな。

 真の目的がそれで、声明で語ってることは後付けだ。


「お父さん……」


 久美子が困惑しているような声で俺に話し掛けて来た。

 この、息子のために2人で家族サービスをする日に。


 こんな……!


 俺たちふたりは、不安になっていた。

 この状況……


 考えられる……!


 すると、嫌な予想が当たって。


 俺たちふたりの携帯端末に、電話が掛って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る