第83話 話し合ってみた

「ただいま」


 家に帰って来て。

 ただいまを言う。


 ……返事が無い。


 ゾッとした。


 何かあったのではないか?


 思わず慌ててリビングに飛び込む。

 するとそこには……


 ソファで山河を抱きながら、座って居眠りしてる久美子がいた。


 ……ホッとする。


 山河も寝てるしな……これ、どうなんだ?


 まあ、寝てるなら寝かしておこう。

 多分大丈夫でしょ。動かないなら。


 そう思ったので、なんかやること無いかとごそごそしてたら


「……あ、おかえり」


 久美子が起きた。




「ただいま」


 挨拶を返す。


「今日は何かあった?」


「未成年が街で騒ぎを起こして、それを解決」


 言いながら、部屋を片付ける。


 ……話し合えって言われたよな。今日。

 翔子さんに。


 どう切り出そう?


 悩みながら、会話を続ける。


「そうなんだ。どうやったの?」


「それは……」


 ご飯の準備は……してるみたいだ。

 俺がいない間は、ちゃんとやってくれるんだよな。


「士族の学校って大変なんだね」


「どうなんだろうねぇ?」


「この子、士族になるんだよね……」


 そだね。

 藤井家が士族だから、久美子がお嫁に来た以上、そうなるね。


 そんな話をしながら


 決断した。


「あのさ」


 切り出す。


「……辛くない?」


「何が?」


「……育児」


 言いにくかったけど、言った。

 すると


「そりゃ楽なわけないでしょ」


 何するかわかんないしこの子。

 何にでも興味を持って、触ろうとする。

 触って確かめようとする。


 ……なるほど。

 近くに危ないものを置けないわけね。


「……で、何が言いたいの?」


 すると、本丸に向こうの方から切り込んで来た。


 ……逃げられない。


 変な汗が出る。

 だけど……問われてるし……


 だから


「育児ノイローゼになることを危惧してる」


 ……言ってしまった。


 すると


 一瞬ポカンとして見ていたんだけど。

 次の瞬間、目が釣り上がり。


 ……あ、キレた。


 そう思ったとき。


 彼女はベビーベッドに息子を連れて行き、寝てる息子を寝かせて。

 戻って来た。


 ……どうみても、ブチ切れている。

 ま、マズったか……?


 そのまま、ズンズンと近づいてくる。


 焦る。焦った俺は


 謝るべきか? と考慮しはじめた。

 そのとき


 彼女は俺の頭を引き寄せて、いきなり俺に口づけし、しかも舌まで入れてきた。

 俺は混乱する。混乱するけど。


 そのまま、しばらくそうしていたら。


 彼女が離れて。


 こう言ったんだ。


「グダグダグダグダ、くっだらないこと考えやがって」


 ……メッチャキレている。

 俺はちょっと、後悔した。


「ちょっと来なさい」


 俺が狼狽えていると、彼女はを俺の腕を引っ張った。

 俺を連れて行こうとする。


 ……連れていかれたのは、夫婦の寝室だった。


 そして俺はベッドに押し倒されて

 俺に圧し掛かって、上になった奥さんに


 あのときの……王城の資料室で見た淫蕩な表情を見せられて


「……そういうしょうもないことを考えるのは、最近ちゃんとスキンシップをとってないからだと思うのよね」


 言って、服の胸ボタンを外していく。

 ……授乳の関係で、すごく胸を出しやすい服なのよな。


 子供の母親として出してるときは、神々しさがあるけどさ。

 今は、女として自分の男の前に出している。


 まあ、やっぱ俺は彼女に惚れているのと。

 最近、ご無沙汰だったのと。

 人間、設計上疲労しているときに性欲が高まりやすいという傾向があるから。


 まあ、平たく言うと俺のスイッチが入った。


 久々に、男として彼女を求めてしまった。


 で。


「……別に私はあなたに察して動いて欲しいなんて求めて無いから」


 終わった後に、横に寝る彼女にそう言われた。


「倒れそうで手が欲しいなら欲しいというし。心配しなくて良いからね」


 そう、言ってくれるけど。

 それで安心できるほど、俺は単純でも無いのよな。


 でもま、その場は頷いたし、ちょっとだけ様子を見ようかと言う気にはなった。

 ……でないと丸く収まらないしなぁ。

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