第82話 親の視点
俺たち四天王の真の仕事は皇帝陛下への魔力転写だけど。
それはあくまで秘密の仕事。
言うまでも無いけどさ。
で、表向きの仕事は、近衛兵の上に立つ、精鋭の魔力保持者集団で、皇帝陛下の剣。
皇帝陛下の代わりに、色々な仕事をすることが任務なんだけど……
それはいつもがいつも、テロリストや魔物や魔族相手の大立ち回りじゃなくてですな。
……こういうのが殆どなのよ。
路上で。
「来いよ! オラ止めてみろよ!」
「ままーっ!」
「ウチの子を返してえぇぇぇっ!」
……学生服の少年が、幼女を人質にして、ナイフを構えている。
少し離れた位置で、その幼女の母親が泣き崩れていた。
こういうの。
規模は小さくても、間違えると人命が失われるタイプの仕事。
こういう案件には、高確率で仕事認定が出されて、皇帝陛下の名前で俺たちのところに仕事として回って来る。
睡眠不足で眠かったけど、現場に来ると緊張感で冴えた。
間違えるわけにはいかないものな。
さて、どうするか……
方法としては、念動力でナイフを奪う。洗脳で少年を拘束する。
この2つがパッと上がって来るけど。
……できれば洗脳は使いたくない。声を出さないと発動しないし。そうすると、誰が使ったのか一目瞭然。
一応仮面はつけちゃいるけど、何かの間違いでお義父さんにそのことが伝わると、ややこしい事態が起きる可能性あるし。
だとしたら、念動力か……
(翔子さん)
後ろの翔子さんに小声で呼び掛ける。
(何? 藤井くん)
同じく小声で返してくれる。
(俺、ナイフを念動力を奪って上に投げるので、それを念動力でキャッチしてください)
(分かったわ)
……よし。
早速俺は念動力を発動させ、少年の手からナイフをもぎ取り、それを上に投げた。
投げ上げたナイフは、空中で停止し、そのまま翔子さんの手の中に飛んでくる。
それをキャッチする翔子さん。
……一見、やったのは翔子さんっぽい。
おっけ。
どさくさに紛れて、少年の腕で拘束されている幼女も、念動力でもぎ取るように奪い取って、母親のところに移動させた。
やられた幼女は、何が起きたのか理解する前に救助される。
はい。
少年丸裸。
事態を理解する前に、武装解除され、人質を奪われたのだ。
あまりのことにショックを受けたのか、動けないようで。
「え? え?」
混乱していた。
俺はそんな少年のところに足早に歩み寄り。
……ビンタした。
「痛ェ!」
「……こんなことをした理由を言え」
このガキ、何でこんなことをやったんだ?
それをどうしても知りたかった。
……洗脳抜きで、だ。
だから引っ叩いた。
「いきなり殴ること無いだろ!」
一撃で泣きべそを掻きながらガキがそんなことを言って来る。
……あのなぁ。
「……犯罪犯しておいてその言いぐさか」
すると
「……俺のチカラを見せつけてやりたかったんだよ」
……そんなことを言って来た。
チカラ、か。
「小さい子を人質に取るのがチカラなのかい」
そういうと
ガキは泣きそうな顔をした。
そしたら
「……強くないと馬鹿にされるじゃん」
その言葉を聞き、俺はとんとんと、顎を指先で叩いた。
こいつ……
俺には思うところがあった。
「……お前、士族か?」
そういうと
ガキは驚いた顔をした。
……士族は、運動能力低いヤツは人権無いところあるからな。
「お前なんか士族なんてやめちまえって言われるんだ」
「……それで?」
俺はガキの話を聞いていた。
昔だったら叩きのめして終わりだったけど。
……気になったんだよな。
だから訊いたんだ。
どうもこのガキ、武術で誰にも勝てないから、それがコンプレックスになってて。
「事件を起こせば皆が俺のことを注目してくれるかも、って」
誰かをねじ伏せる感覚を味わいたいのと、一目置かれたいと思ってこんなことをしたらしい。
「……なるほど。お前にとって、士族の学校でのしょうもないポジション取りは、他の全てを犠牲にしても優先すべきものだったと」
そういうと、ガキは驚いた顔をして
「……え? 俺、逮捕されるの?」
「されるに決まってんだろ」
無論、処罰は緩くなるけど。年齢が考慮されるからな。
そう、心で付け加えると
「でも、1回目は執行猶予ってのがつくんだよね?」
……どうだったかな?
まあ、重要なのはそこじゃないんだが
だから
「重要なのはそこじゃないぞ。お前、世間では一生犯罪者として扱われることになるんだが」
執行猶予なんて言葉を知ってるのは、良くない。
残酷だけど、真実を教えてやんないと。
すると、驚いた顔をして
「……何で?」
「……人の口に戸は立てられないって言葉を知らないか?」
俺の言葉が、ガキはピンと来ないようで。
……しょうがないから、教えてやった。
「法律でお前の情報を止めようとしても、世間の噂話は止められん。だからお前が犯罪を犯したってことは、皆が噂をするんだよ」
すると絶望的な顔をして
「……そんな」
……あのなぁ。
俺はイライラして、思わず髪を弄った。
犯罪を犯した士族のガキは、号泣しながらパトカーに乗せられていった。
それを見て俺は……
激しく、凹んでいた。
爽快感なんて、無いな。
「お疲れ様。藤井くん」
翔子さんが労ってくれる。
それに対して俺は
「……はぁ、ホントに」
嫌な気分になりました。
そう伝えたら
「なんというか、親の視点ね」
自分の子供のことと重ねてしまったんでしょう?
そう、言われる。
……多分、図星だ。
俺はあのガキに対して
怒りと、同情と、あと参考にしたい
この3つがあった。
参考にしたい、と言う部分には不安もある。
山河の将来、気にならないわけがないし。
こうなってしまったら、ホント、嫌だなぁ……。
「多分、それが正解ですね」
そう、俺は翔子さんに返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます