第80話 名前どうする?
病室で俺は久美子と話をした。
そこで色々衝撃発言を受ける。
「……正直、最初に感謝か労い来なかったら離婚を検討してた」
ベッドの上で。
笑いながら久美子が言う。
……マジか。
「最悪なのは産まれた子の性別に文句つけるとか。それはもう……本当に」
そこで笑顔のまま一瞬溜めて
「最低よ」
……正直、男の子生まれたら厄介だなぁ、と内心思ってたけどさ。
口に出さなくて良かった……
俺、運が良いなぁ……
「……何かあったの?」
「従姉のお姉さんがそれをやられて、本当に腹が立った」
……そっすか。
まあ、人には歴史があるしな。
ついでに訊いてみる。
「……高確率で自分に懐くって言うのは?」
「従姉のお姉さんの実例」
なるほど。
と、そういう話をしていたら。
産湯を使ってもらって、綺麗になった俺たちの子供が病院の人に連れられてやってきた。
俺たちの会話は止まった。
当たり前だけど。
赤ちゃんを渡されて。
久美子は、我が子を抱きながら病院着の前を開けて、その乳首を含ませた。
俺たちの子供は、久美子の乳首を一生懸命吸っているみたい。
「……もう出るの?」
それを見ていた俺が思わず聞くと
「まだだけど、こうやって頻繁に吸ってもらうのが大事なのよ」
ふぅん……
……ちょっとだけ、今まで自分が独占してたものを息子に取られた気がした。
良くないな、これ。
人の親の思考じゃ無いだろ。
思わず自戒する。
そしたら
「この子の名前、どうしようか?」
我が子に授乳の練習をさせながら、彼女は言って来た。
子供が生まれた際に避けられない話題。
うん。まぁ、それだよね。
ちょっと思案して
気づいて愕然とした。
……どうしよう。
つけたい名前が無い。
ヤベ……
これは多分、俺は自分の後継ぎという概念に興味が無いってことなんだ……。
原因はおそらく、ここまでの人生。
自信なさ過ぎて生きてきたから、自分の跡継ぎが欲しいという欲求が薄いんだ。
産んでもらっただけで万々歳で、自分の名前を継がせたいとまでは思って無いんだ……
どうしよう……悩んだ……
こんなの久美子に言えないぞ……
愛想つかされるかもしれん……!
だから……
「キミはなんてつけたいの?」
質問を質問で返す……
良くない。
良くないが……
彼女が考えてくれた。
「私は……あなたの名前の河の字が好きだから、河は入れたい。だから、前に山の字をつけて
……実質、あなたの3人目の子なわけだし。
そう、言ってくれる。
……なんかもう、申し訳ない。
内心、自分が情けない。
そう、思いつつ
「うん。それ、すごくいい。そうしよう」
……俺はそれを全肯定した。
そういうわけで決まった俺たちの息子の名前は、その日のうちに手続し。
公的に「藤井山河」に決定した。
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