第73話 彼の魔力よ

「父さん、母さん、兄さん。私の同僚で、婚約者の藤井大河さんよ」


 家に上げて貰えて、リビングに通された。

 そこには初老の夫婦と、久美子より何才か年上っぽい男性が居て。


 ……全員、まあ身なりはちゃんとしてる。

 久美子の家は平民だけど、それと家の格はまあ、別だわな。


 ひょっとしたら、俺の家の方が格が下かもしれない。

 というか、おそらくそうなんじゃないのかね?


 ……ウチ、田舎だしなぁ。


「よろしくお願いします。藤井大河です」


 頭を下げる。

 下げて、ドキドキしていた。


 ……俺、大丈夫だろうか?


 まともに見えているよな?


 一応、服装は灰色の背広を着て来たけどさ。


 ……ちょっと久美子に笑われたけど。

 普段、軍服に近い感じの制服着てるから、イメージに無いらしくて。


「なんだか、普通の勤め人みたいに見えるよね。違和感があるわ」


 ……悪意が無いのは理解してるけどさ……。

 ちょっと引っかかるのはしょうがない。


 まあ、相手の評価待ち。

 一体、何て言われるのか……?


「……悪い人間には見えないな」


 するとだ。

 年上男性……まぁ、久美子の兄さんだよな……彼がそんなことを言って来た。


 悪い人間に見えない……


「あ、ゴメン。声に出てた」


 その言葉が染み渡る前に、そのお義兄さんが俺に謝罪する。


「妹がいきなり、結婚する人を連れてくるっていうから、身構えてたんだよ。すまない」


 ……久美子の兄さん……彼は、線の細い男の人で。

 久美子の兄さんらしく、綺麗ではあった。

 そう、綺麗な感じ。

 緑色の部屋着を着てて、ちょっとだけダサかった。

 顔は綺麗なんだけどな。


 ……まあ、学者肌の人ってこういうの多い印象はあるよね。


 しかし……

 身構える……


 出てきた第一声が「悪い人間に見えない」


 ……久美子の今までのオトコって……


 悪い系が多かったのか?

 それこそ、2個上の不良の先輩とか。


 ……別にさ、いいんだよ。

 今は彼女、俺のことを愛してくれてるのは疑って無いし。


 でも、正直……

 あまり知りたい話では無いな……!


 よし。

 誤魔化そう。


 俺は心に決めた。


「……キミ、士族なんだよね?」


 すると。

 お義父さんが俺に対してそう切り出してくる。


「は、はい! ド田舎の士族ですが一応!」


 頭を下げながら

 すると


「ウチ、平民の家だけど、良いの?」


 ……これが来た。

 まぁ、言われるよな。


 ……どう答えるべきなのか?


 気にしません、なんて言うと、下に見てるみたいだし。

 かといって身分差を問題視しないことが正当、みたいなことを言うと、お義父さんの顔を潰すことになる。


 ……どうすればいいんだよ?


 そしたら、だ。


「お父さん」


 ……久美子が口を挟んで来た。

 そして、こう言ったんだ。


「彼が私が良いって言ってくれたの。それ以上の答えが要るのかな?」


 ……一瞬、そんなこと言ったっけ? って思ったけど。

 まあ、久美子の言ってることは嘘では無いし。

 黙って、彼女を見つめた。


「……まあ、三民は全て臣下であるわけだから皆平等ではあるからね。身分によって優遇があるだけで」


 三民……平民、士族、華族をまとめた呼び方。


 その証拠に、選挙権は平民も士族も華族も、皆1票だしな。

 そうお義父さんは言ったんだけど。


 ……なんか、丸く収まった感じ。

 俺は彼女に感謝する。


 ありがとう、久美子。


「……そういえば、久美子」


 すると、次はお義母さんが。


「あなた、眼鏡掛けてないけど、手術したの? それともコンタクトに変えた?」


 ……お義母さんは久美子を少し老けさせた感じで。

 昔の久美子と同じく、眼鏡を掛けていた。


 そこに気づいちゃうか。

 まぁ、無難なところで「コンタクトに変えた」だよな。


 だって……


 そう思っていたら……驚愕した。


「ああ、これは彼と双転写したから、彼から貰った魔力のせい」


 少し恥ずかしそうに。

 久美子はそう言ったんだ。


 ……オイ!

 それは爆弾発言だろ!?

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