第64話 陛下への転写

 転写の日。

 その日がやってきた。


「藤井さん、本日はよろしくお願いします」


 王城で、近衛兵の人にそう頼まれた。

 それはそうだよね。


 俺たちの主君とセックスをするんだし。

 俺は使命を意識して、行動していた。


 直前の身体の洗浄を行った後。


 俺が通された部屋。


 そこは、あまり豪奢な部屋では無かった。

 粗末な部屋でも無かったが。


 王城内の、四天王用の転写の部屋に似てる気がする。

 それの、若干高級版。そんな感じ。


 ……この行為自体、秘密の行為でもあるし。

 そこに金を掛けるべきではない。

 そういう思想なのかな?


 まあ、俺の気にするところでは無いから、どうでもいいんだけど。

 そう、どうでもいい。


 これからすることを考えるなら、心底どうでもいい。


 俺はベッドに腰掛けて、陛下を待った。

 裸で陛下の出御をお待ちした。


 待ってる間、考えた。


 久美子のことを。

 彼女も陛下の臣下だ。

 このことを、当然知っている。


 ……何を思うんだろうな。彼女は。

 俺なら多分耐えられない。


 申し訳ないと思う。

 こんなことを考えていると大っぴらには言えないけど。


 ……駄目だ。考えるな。

 俺は陛下に集めた魔力を献上するだけだ。

 その際に、性行為をするだけなんだ。


 そこに深い意味は全くない。

 ただの行為だから、久美子への愛には全く影響でないんだ……。


 そんなことを考えていた。


 すると……


「藤井」


 ……ハッ、とした。

 慌てて顔を上げる。


 ……一糸纏わぬ陛下がそこに在った。


 何も隠していない。

 恥じらい、なんてものは無かった。


 この前のデートのときは三つ編みにしていた髪を解いてロングに。

 そう。完全に何も身に纏っていなかった。


 その裸身を、俺は直視できなかった。

 絶対に美しいはずなのに。

 恐れ多くて。


「待たせましたね。それでは始めましょうか」


 淡々と、俺に仰られる。

 その表情は、宗教彫刻でよく見られるアルカイックスマイル……


 ……デートのときはただの美少女に見えていたけど。

 こちらの陛下は……神だった。


「あなたは何もする必要はありません」


 そう仰ったので、その通りにした。


 ベッドに横たえられ、そのままお任せした。


 ……陛下に、俺の雄の部分を呼び起こす行為を全部お任せした。

 

 そして……その手際は物凄かった。

 そこで俺はなんとなく考えた。


 ……陛下は絶対に処女じゃない。


 おそらく皇帝陛下は、即位前皇太子に決まった瞬間に、この事態に備えて帝王教育の一環として、こういう性技に関しても習得が決定づけられているのだ。

 転写のとき絶対に主導権を取れるように……。


 そのために、誰が相手をしたのか分からないけど……。


 そして、陛下と交わるときがやってきて……


「藤井、耐える必要は全くありませんからね。回数は要求しますが、私の満足などは考えなくて良いです」


 俺の上から降ってくる声が、天から降ってきている気がした……。




 そして陛下が入御された後。

 ひとり、部屋に残された。


 ……陛下とのセックスは、ものすごかったけど……

 涙が出た。


 悲しくて。

 久美子に申し訳なかった。


 そして、やっと分かった気がする。


 ……翔子さん、こういう気持ちだったのかなぁ……?


 あまりにも辛かったので、別のことを考えた。

 この転写と引き換えに、陛下に教えていただいたことを。




「……陛下、ひとつお訊ねしてよろしいでしょうか?」


 俺の上で行為を実行しながら、陛下は答えてくださった。


「なんです?」


 全く平静であらせられた。陛下はそのまま、行為を続け

 俺は翻弄されながら、訊ねた。


「……陛下の魔力は一体何なのでしょうか?」


 行為を続けながら、陛下は一瞬沈黙され

 そして


「……いいでしょう。藤井……決して他言してはいけませんよ」


 あなたの伴侶にも。いいですね?

 そう、念を押され……顔を近づけて


 こう、仰られた。


「私の魔力は”時間停止”です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る