6章:結婚までの道

第65話 地元に帰ってみた

 陛下への転写が終わって。

 その後数日して、再度転写の要請は無かった。


 ……多分、成功したんだ。


 子宮内部で精子は5日くらいしか生きていない。

 そして卵子の寿命は1日。

 射精後しばらく時間を置いてから精子は受精能力を獲得し。

 そして精子が卵子の膜を突破できたら受精が完了。

 その後、着床が成功したらようやく妊娠、なのだ。


 だから、転写が成功したかどうかは、セックスから1週間以内に自覚が来るかどうかで分かる。


 もう1週間以上経つのに「もう一回転写の日取りを設定する」という話が来ないから。

 ……そういうことなんだ。


 これでもう、陛下は無敵だ。

 俺の今持ってる魔力を全て備え、その上時間を停めることもできる。

 そんな魔力保持者に勝てるわけがない。

 これでもし、この惑星のどこかで縄張りを失い、食い詰めるに至った魔王が攻めてきても、魔王との一騎打ちで解決する展開に持ち込めば地球帝国は守られる。

 俺たちの代の地球帝国は安泰だ。


「大河」


 そんな考えごとをしていた俺に、久美子が近づいてきた。

 俺は久美子の許可も取らずにいきなり、抱きしめてキスをした。

 結構深い方だ。


 久美子はそれを嫌がらずに受け入れてくれた。


 ……最近、ずっとこうだ。

 なんというか、上書きしたかったんだ。

 俺は別に陛下が嫌じゃ無いけど。

 これとそれは別。

 別の女としたことを、久美子で上書きしたかった。


 ……本当は久美子を抱きたかったけど、そっちは我慢した。

 今、彼女のおなかには俺の子供がいるわけだし。


「……落ち着いた?」


 キスが終わったとき、久美子はそう言ってくれた。

 俺がどういう状況なのかを理解してくれている。


「……ゴメン。キミを求めてばかりで」


「いいよ。あなたが辛かったのはなんというか……ゴメンね、ちょっと嬉しいから」


 そう、彼女は少し寂しそうに言って笑ってくれた。

 ……久美子。


 こんな女性に好きになって貰えたことが、俺はたまらなく嬉しかったし。

 そのせいで、余計辛くなる。


 だから


「……なあ、久美子。約束の俺の両親に会ってもらう件だけど」


「うん」


 彼女は俺の話を聞いてくれる。

 俺は、言った。


「……今週末大丈夫かな?」


「もちろん!」


 彼女はそう言って、微笑んでくれた。




 俺の実家は、地方都市にある。

 久美子の実家は王都内にあるそうだけど。


 ……そっちの方もすぐに挨拶に行かないとな。

 俺は列車に乗りながら、考えた。


「あなたのご両親に会うのが楽しみよ」


 久美子は俺の前の席に座りながら、そんなことを言ってくれた。




 そして。

 俺の地元のアビス町に戻って来た。

 ……正直、クソみたいな土地なので、戻って来たくはなかったんだけど。


「久美子」


 ……そうだ。

 この街の門を潜る前に、言っておかないと。


「な、何?」


 俺の声の調子でただならぬものを感じたのか、そう、神妙な面持ちで俺と向き合う。


「……この街では、何が起きても見て見ぬふりして欲しいんだ」


 こんなこと、言いたくないんだけど……!

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