第63話 陛下の気持ち

「危なかったですね」


 なんてことない感じで陛下。

 陛下はそのまま公園へ行こうとする。


 ……陛下、魔力をお使いになられましたか?


 これを死ぬほど聞きたかったけど。

 俺は黙って付いて行った。


 そして公園。

 砂場で遊んでる子供がいるし、滑り台で遊んでる子供もいる。

 そしてその幼児を連れて来た親も。


 俺たちは公園のベンチに腰を下ろす。


「……藤井君は結婚されますか?」


 そのときだ。

 いきなり陛下がそう御下問された。


 結婚……


「はい」


 俺はそう答える。

 ここで、自信なく答えるのはダメだ。


 自惚れとか妄想とか、キショイとか。

 言いたいなら言えって気持ち。


 少なくとも、久美子との仲はそういう関係でありたいし、そうするべきだと思うんだ。


 すると


「相手は同僚ですか……? やはり」


 陛下のお言葉。

 それに対して


「はい」


 そう、答える。

 すると……


「そうですか……」


 陛下は何か遠い目で……

 なんだか


 嬉しそうに見えた。


 何でだろう……?


 俺は少し考える。


 ……そして。


 ふと、頭を過ったのは……


 陛下も苦しいのかな、と。

 臣下に愛の結果では無いセックスを命じて、子供まで作らせることに。


 ……進美は陛下に心酔してる。

 それは、こういうお人柄を知るに至ったから、なのかな。


 国防上、この転写による多重魔力保持者作成は避けられない。

 やらざるを得ないことだから、やるということは決まっている。


 だけど、その結果残る状況が、少しでもマシであるならそれにこしたことはない。

 それを知りたいんだろう。


 そして、それに対して「嬉しいか?」「幸せか?」と問わないのは、そこまで訊くと臣下にさらなる苦痛を強いる可能性があるからかな。

 仕方なく結婚した、って場合があるから。むしろそっちが多いかもしれない。


 だとしたら……


 俺は言った。


「同僚の久美子は、俺の奥さんになりたいって言ってくれたんです」


 陛下に奏上する言葉は、おそらくこれが最適であると思ったから。


「だから俺は、幸せだと思います」


 ……突然何を言い出すんだ?

 そういう顔で陛下は俺をご覧になっていたが。


 意図に気づいてくださったのか、こう仰られたんだ。


「それはそれは……おめでとうございます」


 その後、俺は陛下を王城までお送りし。

 陛下のデートは終了した。




 ……そして。


「藤井くん。陛下に転写するお日取りが決定したわ。準備しておいてね」


 後日、いつも通りに王城に出勤すると翔子さんにそんな連絡を入れられた。

 転写の日……陛下とセックスをし、陛下を妊娠させる日。

 俺が久美子以外の女性とセックスをする日。


 ……その連絡を受けた後。


 その日職場で出会った久美子を、人目が無い場所で俺は抱きしめた。

 事情を理解している久美子は、それを受け入れてくれた。

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