第60話 陛下とデート

「え……デートでありますか? 陛下……?」


 俺が必死で声を絞り出し、確認すると


「ええ。デートです。……転写を行う際は事前に必ずそうするようにと、歴代皇帝の口伝の中にあります」


 そんな口伝あるんや……歴代皇帝の中には。

 まあ、転写をただの作業では無く、神事にまで高めるためには、そういう真っ当な交際をねじ込まないといけないという、そういう精神性があるのかもしれないな。


 しかし……


 俺に務まるんだろうか……?


 でも、俺は臣下だし。

 断るという選択肢は無いわけで……


 だから……


「分かりました。いつがよろしいですか? 陛下」


 ……頭の一部のスイッチを切りながら。

 俺は陛下の御意向を確認しようとした。


 すると


「憲法の規定で、地球皇帝は自分の意思の表明はできませんね」


 と、仰られた。


 ……えーと


「申し訳ございません陛下。それは政治的な内容に関してではございませんでしょうか?」


「冗談です。藤井。……遠慮なく、あなたのプランを申すのです」


 冗談なのか……心臓に悪いからやめていただけませんでしょうか?

 まぁ、臣下だから口には出せないけど……


「では……海獣館などはいかがでしょうか……?」


 海獣館……海の魔物を水槽で飼ってる巨大水族館……。

 その後に、どこか陛下の御興味がありそうな食事処で……


「海獣館ですか……」


 陛下はご思案なさっているようだ。

 そして


「マンオーウォーは見れるのでしょうか?」


 ……御下問!


 マンオーウォーっていうと、海の魔物で、知性がかなり高い巨大蛸だよね。

 飼い慣らしてショーをするというのが結構有名なんだけど……


 海獣館では見れるんだろうか……?


「ちょ、ちょっとお待ちいただけますか? 陛下」


 申し訳ありませんと言いつつ、俺は携帯端末を取り出し……検索


 海獣館……マンオーウォーショーは……あるな。


「大丈夫でございます陛下!」


 そう奏上すると


「ならばそこにして下さいますか? 藤井」


 陛下のお言葉。

 俺はそのお言葉に


「それでは陛下、3日後の午前10時に王都の噴水広場などいかがでしょうか?」


 さらに奏上。


 陛下は


「分かりました藤井。よろしくお願いします」


 おお……


 俺の奏上は、陛下の承認を得た。




 そして3日後。

 噴水広場。


 ……今日、陛下とデートだなんて、久美子に言ってない。

 これ、なんかとても悪いことをしている気になって、辛い……


 これ、相手が陛下じゃ無かったら酷い話だよね……?


 俺はなるべく真面目に見える格好にした。

 そうしないと、ちょっと不敬すぎるでしょ。


 ……まあ、正直。

 デート自体行くのが辛いんだけど。


 約束の時間は10時……果たして、陛下は時間通りに来るのか……?

 俺は時計を睨みながら、待っていた。


 すると


「藤井君!」


 ……聞き覚えがあるというか。

 謁見の間で聞いた覚えのある声がした。


 平たく言うと、陛下の声。


 ただし、声の感じがなんか違う。


 振り返る。


 そこには……


 ブルーのジャケットとフレアスカート、白いシャツ。

 そしてブルーのハンチング帽。

 茶色のハンドバックを装備した、黒髪ロングを後ろで三つ編みにしている美少女。


 ……うん。

 陛下だった。


 ただ、意識してるのか……謁見の間で感じたプレッシャーが感じられなかった。

 周りも全然気づいていない。


 ……まぁ陛下はメディアに出ないから、誰も陛下の姿は知らないんだけど。

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