5章:地球皇帝

第59話 二度目の謁見

 陛下に謁見するのは四天王に選ばれたとき以来だ。

 正直、あのときは恐れ多くてあまりよく見ていなかった。


 でも……


 なんというか、姿かたちは人間なのに、人間の雰囲気を感じない人だった。

 それだけは、なんか覚えてる。


 俺より絶対に年下なのにな。


「藤井殿、よろしくお願いします」


 近衛兵の人が俺にそう伝えてきた。

 正直、避けたい。


 神様に会いたがる人間はそんなに居ないだろ。

 一回会えば十分と言うか。


 ……誤解のないように言っておくが、俺は皇帝陛下に対する忠誠心は人並みにあるつもり。

 進美には負けると思うけど。


 忠誠心のあるなしの問題じゃないんだよ。

 こういうの。


 まあ、そうはいっても、仕事だし。

 やらないわけにはいかないだろ。


 覚悟を決めて、歩き出す。

 赤い絨毯を歩いていく。


 謁見の間の大扉を潜り抜ける。


 そして謁見の間の玉座の前で膝を折る。


 陛下のお言葉を待ちながら。


 すると


「……ご苦労でしたね」


 陛下のお声だ。

 なんて答えればいいのだろうか?


 慣れて無いから、対応できん……


「後は私に転写すれば、帝国議会で理想の構成と判断された魔力構成が出来上がります」


 ……声には労いの気持ちが溢れている。

 その言葉には苦痛だとか苦しみだとか悲しみだとか、そういうのが全くなかった。


 ……転写するってことは、これから俺と子供を作ることが前提なのに。

 陛下は俺のことを男として好きとか、そんなものは絶対に無いはずだ。


 それなのに、だぞ?


 それを何とも思ってないみたいだった。


 ……異次元の精神性。

 それを思い知らされて。


 同時に、帝王の精神というものが理解できた気がした。


 それを思い知り、動けなくなっていると。


「……藤井。許します……顔を上げなさい」


 陛下の許可が出た。

 俺は顏を上げる。


 ……見るのは2度目。


 神々しい雰囲気を纏った、黒髪の美少女。

 身体のパーツで不揃いのものがひとつもない。


 そんな美少女が、純白のローブのような衣装を纏い、玉座に在った。


 ……はじめて本当に直視した気がする。

 これが2000年以上この国に君臨している地球皇帝……!


 直視した瞬間、恐怖に似た気持ちが湧いて来た。

 これが……


 恐れ多い


 って気持ちなんだろうか?


「……本当にご苦労様でした。辛いこともあったでしょう……」


「あ、ありがとうございます……!」


 俺が発せた言葉はそれが限度で。

 何が辛かったとか、泣きたかったとか。


 そんなことを言う気持ちが、全然湧いてこなかった。


「藤井……あなたには最後の仕事があります。よろしくお願いします……ですが、その前に……」


 動けない俺。

 そこに……


 玉座の陛下が立ち上がり、俺の方に歩み寄って来た。


 え……


 顏は動かせない。

 目玉だけで陛下の動きを追う。


 陛下はそっと歩み寄り


 こう言った。


「藤井。命じます……私とデートしなさい」


 ……えー……


 肝が冷えた。

 どうしよう……


 皇帝陛下のその言葉は……

 全く一緒だったんだよな。


 最初に、俺を労ったときの声音と。


 こんな精神性の帝王少女と……デートだって?

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