第57話 本当の確定事項

「やはり四天王の皆様はすごいですね! さすがは皇帝陛下の剣!」


 外野さんが俺たちを絶賛してくれた。

 まぁ、色々あったよね。


 四天王間の最後の転写が起きたり。

 俺の婚約者が決定づけられたり。


 俺は自分の隣に立っている久美子を見る。

 この仕事に出ていく前は、眼鏡を掛けていたけど。

 今は、近眼が無くなったので、眼鏡女子をやめている。


「それでは。また何かでご一緒することがありましたら、よろしくお願いします」


 そう言って、外野さんは去って行った。


 俺たちは、その場に残される。


 そして


「……久美子、悪いんだけど」


「何?」


 これは言っとかないとな。

 彼女の顔を見て、こう告げた。


「……俺の両親にすぐにでも会って欲しいけど……その前に、皇帝陛下へ集めた魔力を転写して差し上げないといけない。分かってくれ」


「それは当然でしょ」


 そう言いつつ。

 少し、寂しそうな顔をした。


 ……そりゃそうだし。

 そういう顔をしてくれるのが……久美子には悪いけど、少し嬉しかった。


 こんなことで喜ぶのは、絶対に間違っているのにな。

 相手のどうしようもない嫉妬を喜ぶなんて。




「翔子さん、とうとう四天王の魔力がひとつに集まりました」


 俺は翔子さんに報告する。

 その次に何をするのか。それは分かり切っているのだけど。


「良くやったわね。ご苦労様」


 翔子さんは俺を労ってくれた。

 そしてこう言ってくれた。


「早速、陛下への謁見の調整をするわ。急がないといけないからね」


 そう言って、去って行った。


 ……翔子さん。

 使命のために止むを得ず、俺とセックスして、妊娠までしてくれた女性……。


 俺のはじめてのひとで、俺の好きだったひと……。


 彼女とセックスする前は、彼女の旦那さんへの罪悪感でどうにかなってしまうと言ってはいたが。


 いざやってみると、自分の恋愛感情が絶対叶わないことへの辛さばかり。

 つまり自分のことばかり。


 旦那さんへの罪悪感は特に感じていなかった気がする。

 理屈の上では、感じないとおかしいはずなのに。


 だけど。


 ……今更、分かって来た。

 理由は簡単だ。


 ……俺にも心が通じ合った女性が出来たからだ。


 もし皇帝陛下が男で、四天王の魔力を久美子が転写しないといけない立場だったら。

 俺は平静でいられるだろうか?


 ……気が狂うかもしれない。


 それくらい、嫌だ。

 だけど……


 翔子さんの旦那さんは、会ったことは無いんだけど……

 それを納得したんだ。


 どれぐらい辛かっただろうか。

 想像もできないな……。


 この場合、翔子さんの旦那さんに俺はどうするべきなのか。

 じっと考えた。


 謝るのはおかしい。俺だって使命でやった。

 それは陛下に対する反逆も同じ。

 かといって、開き直るのも違う……


 俺はどうすれば良いんだろうか……?


 翔子さんは俺の子供を妊娠してから、全然そのことに触れない。


 考えないようにしているんだろうか。

 それとも……


 俺はそのことに思い至ったとき。


 俺は久美子を探して走り出した。


 久美子は、今日は帰るつもりなのか。

 制服から私服に着替えてて。


「……大河?」


 キョトンとしていた。

 俺はそんな久美子を抱きしめた。


 久美子は驚いたようで


「あ……ちょっとここでは……恥ずかしい」


 抗議されたが、無視した。

 そして俺は彼女に小さい声で、頼んだ。


「……キミには申し訳ないけど、翔子さんの産む子供を引き取ることを認めて欲しい」


 前に土下座したとき。

 確定はしてなかった考え。

 でも、今の俺の中では本当の確定事項になっていた。


 これまではおそらく俺が翔子さんの子供を引き取る。

 だが、今はこうだ。


 翔子さんが泣いて嫌がっても、彼女が産んだ子供を俺が引き取る。


 そうしないと……


 旦那さんがあまりにも可哀想だ。

 できない。男として。


「俺は男だから、翔子さんより翔子さんの旦那さんに共感する。だから、絶対に翔子さんの旦那さんに俺の子供を育てさせるわけにはいかない」


 そこだけはハッキリと言った。

 これだけは絶対に間違ってない。


 すると……


「問題は、私たちの子供が双子だった場合だよね。……おっぱいが足りなくなると思うから。2つしか無いもんね」


 なんて。

 久美子がそんなことを軽い感じで言ってくれた。


 それが意味すること。それを理解したとき。


「……久美子」


「……私があなたを本当に好きになったのは、自分の子供のために、絶対に自分の手に入らない女性に土下座できたところだから。女性を愛して、その結果生まれる子供を、女性が手に入らなくても愛することが出来る人なんだなぁ、って」


 俺の腕の中で、彼女は微笑んでいた。


 そして、こう言ってくれた。


「……いいよ。そのときは、一緒に赤ちゃんを渡してもらいに行こうか。大河」


 私も説得を手伝ってあげるから。

 ……彼女のそんな言葉に、俺は心の底から感謝した。

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