第56話 テメェいい加減にしろ
「久美子!」
俺は駆け寄った。
何が起きたのか、まだ俺は理解できていなかった。
……どういうことなんだ?
彼女は
「大河! ……双転写よ……これが」
満面の笑みでそう言った。
双転写……?
俺にはピンと来なかった。
「……初代皇帝陛下と、皇后陛下の間に起きた転写よ。伝説はキチンと覚えておきましょうよ……」
久美子はちょっと俺を嗜めるように言ってくる。
確かに、伝説関係でモノを知らないのは帝国国民としてはマズイかも……
で、少し考えて……
……ああ、そういえば「皇帝陛下と皇后陛下は互いの魔力を互いに転写し、その力で魔王に打ち勝った」って話だったな。
あれ、深く考えてなかったんだけど……双転写って言うのか。
えっと……それって……
「まだ理解が及んでないみたいね」
ちょっと、溜息を吐かれてしまった。
ショックを受けてしまう。
うう……情けない。
彼女は説明してくれる。
転写の切っ掛けになる妊娠が起きたセックスで、主導権が男女双方に無い場合。
そういう場合に起きる転写。
完全なる夫婦にのみ起きる転写と言って良いと思う。
……あのとき……王城資料室であなたと愛し合ったとき。
私もあなたも、相手を支配するのではなく、溶けあい、一緒になるために本能で愛し合ったよね。
だから思ったのよ。
この転写は絶対に双転写になる、って。
「だから、このお仕事に出る前に、ドラゴンキラーを小石川さんにお願いして急遽手配してもらっておいたのよ!」
ニコニコ顔の彼女。
目論見通りになったので、本当に嬉しいのだ。
えっと……つまり……
ようやく呑み込めてきた。
俺の持つ魔力が、全て彼女に転写されたということか?
彼女の魔力が俺に転写されたのと同じように……!
つまり……
「今の私とあなたは、持っている魔力が全く同じなの!」
……そういうことか!
今の彼女は、俺と同様に……
物理攻撃と火炎攻撃が効かず、メスライオンの筋力を持ち、夜目が利き、念動力を持ち、火炎を操り、発言での洗脳と使い魔を使用できる。
そして眼鏡を捨てたのは、ネメアの獅子の力を得たことで、近眼が無くなったせいだろう。
それを知り、俺は……
嬉しかった。
俺の魔力が、全部彼女に転写されたことが。
俺の愛情が、彼女に受け止められたように思えて。
だから、言ってしまった。
「久美子! 俺の両親に会って欲しい!」
言ってから……
(あ……やべ……)
言ってから後悔した。
「……ゴメン。いきなり……キモかったよな」
そのまま今のナシ、って言おうとして……
いきなり腹パンを受けた。
……衝撃だけで、痛みは無かったんだけどさ。
顔を上げると……
「……テメエいい加減にしろよ?」
……彼女が、キレていた。
俺は目を離せない。
彼女は言ってくる。
「……この状況で、それがキモくなる理由が私全くわかんない。意味不明。どうしてそんな発想になるの?」
こめかみが震えているような気がする。
……マジ切れしている。
「だって……色々ノリで言ってしまっただけかもしれないし……」
「ねぇよ!」
……一喝された。
「あなた、素敵な人なのに全く自分に自信を持ってない人だなとずっと思ってたけどさ……ちょっとそれは酷いよ。いい加減にしてよ……」
くどくどくどくど。
彼女に説教されている。
「……あなたに抱かれる前に私言ったよね? あれは全部本心。真実。私の想いよ……そこんところ、ちゃんと理解してくれないかな……」
じっと、俺の目を見つめながら、彼女は言って来る。
俺の奥さんになりたいという気持ちも、俺の善性を認めてくれたことも本当……。
俺は……
「あ……ありがとう……」
お礼を言うしか無いよな。
それを受けて彼女は
「私もありがとう……私の願いを叶えてくれて」
彼女は俺に抱き付いて来た。
そして俺の耳に唇を寄せて
こう言った。
「これからよろしくね……パパ」
……その言葉で、俺は彼女の中に宿る命について強く意識してしまった。
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