第55話 双転写

 ドラゴンのファイアブレス。

 温度は確か3000度に達すると聞いている。


 そんなものを浴びせられた。


 久美子は……!


 はじめて、俺と結婚したいって言ってくれた女性。

 俺が本気で結婚を考えた女性。

 そして親父に紹介したいと思った女性……。


 それらが、全て燃え落ちて……


 ……!


 炎が消えたとき。

 そこにあるのは、無残な黒焦げ死体では無かった。


 使い魔を自分の前に放射状の形状の盾に展開し、踏みとどまる姿。


 ……影使いで生み出す使い魔に、耐火能力は……そんなもの、あるはずがない。


 なのに、何故耐えられたのか……?

 

 そして……


 久美子は両手で何かを持っていた。

 大きさは長さ2メートルくらい。

 長い筒に、根元に武骨で太い弾倉部分。

 まるでトランクに筒が生えたような形状。

 そのトランクのような箇所に持ち手があり、久美子はそこを持っていた。

 持って、構えている。

 軽々と。相当な重さのはずなのに。


 俺は、この武器を以前銃火器のカタログで見て、知っていた。


 対竜種ライフル・ドラゴンキラー。

 全長2メートル10センチ。重さ37キロ。

 装弾数7発。射程圏内であれば、確実にドラゴンの鱗を貫通できる徹甲弾を発射できる。


「……」


 久美子は無言で左手を動かし、掛けていた眼鏡を外し……捨てた。

 そして裸眼のまま、右腕でドラゴンキラーを構え……


 左手で、ドラゴンキラーのトリガーを引いた。


 次の瞬間、激しい発射音が響き、打ちだされた徹甲弾がドラゴンの胴体を貫通し……


 るぎゃあああああ……


 その巨体を、地上に落下させた。

 久美子はその様子を、会心の笑みで見つめていた。

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