第54話 久美子のチカラ

「ドドドド、ドラゴンですよ!? どうするんですか!?」


 外野さん、動揺している。

 いや、ちょっと慌てすぎ。


 デカいけどさ、魔族の方が多分怖いんだよ?


 まあ、危険な相手ではあるんだけど。


「外野さんと、久美子は逃げてください! 俺が片付けます!」


 言って、斬鉄剣を抜いて俺は八相に構えた。


 久美子は戦闘能力が無いからな。

 逃げて貰うしかない。


 敵は2体。


 しかもドラゴンだ。


 ドラゴン……飛行する大型の魔物の代表格。

 確か、ファイアブレスも吐くんだよな……。


 ちなみに肉は美味いらしいが、今は関係ないよな。

 それどころじゃないし。


 るるるあああ……


 ドラゴンはそう咆哮をあげながら……


 大きく羽ばたき、急降下してくる。

 鋭い爪が生えた前足を構えながら


 ……よし!


 そして舞い降りてきた1頭の爪爪牙尻尾。


 前足2連撃。

 噛みつき。

 そして尻尾の叩き攻撃。


 通称、ドラゴンフルコース。


 それが来ると思った俺は……


 最初の鉤爪の一撃を……


 全く避けずにそのまま喰らった。


 ……引き換えに、ドラゴンの右前足の指を3本くらい貰いながら。

 回避を犠牲にして、斬撃を浴びせる。


 るぎゃああああああ!


 そこで、攻撃中断。

 ドラゴンは再び舞い上がる。


 俺は一撃で吹き飛ばされたが、当然ダメージは無し。

 飛ばされながら姿勢制御し、踏みとどまる。


 足が地面と摩擦して、音を立てる。


 そしてまた斬鉄剣を八相に構えた。


 ……攻撃したら指が無くなったのに、相手にはダメージが無い。

 それがドラゴンにも分かったらしく。


 るおおおおお……


 舞い降りることに不安になっている。


 高いところを舞うドラゴン。

 俺も、そこまで跳躍するのは不可能だ。


 ……どうするか。


 しばらく思案して


 思いついた。


 そうだ……


 




 俺は頭の中でイメージを組み上げた。

 使える使い魔の数は3体。


 使い魔は大きさの調整で射程距離の調整。

 あと、形状の変化で用途を選択することが出来る。


 例えば蠅の姿にすることで、偵察に適した視力と視野、そして動体視力の強化と、住居内への侵入能力。

 馬の形状にすることによる、移動速度の向上。


 そして……


 使い魔3体を使用して、互いをクラッチさせ3体を1体に統合……

 そして4枚の翼を持つ、飛行ユニットに変形させる!

 そんなものを、俺は身に着けて羽ばたいた!


 ドラゴンどもが驚愕していた。

 さっきまで、地を這う劣等生物だったのに。

 突然自分たち同様、飛行能力を持つ同格の生き物に変わったからか。


 俺は斬鉄剣を構え、ドラゴンに突っ込んでいく。

 やつらの内、1頭が俺に向かって、紅蓮の炎を吐き出した。


 しかし、意味が無い。


 俺には火炎攻撃が通じないからだ!


 そのまま、ブレスを避けずにドラゴンのアギトに飛び込んだ。

 そして斬鉄剣の切っ先をドラゴンの喉に突き刺し……頭部を一刀で真っ二つにした。


 グオオオオオ!


 力を失い、墜落していく。

 俺は羽ばたき、見回した。


 これで1頭!

 あと1頭は……!


 見回して……


 ……血が凍った。


 残り1頭が、久美子と外野さんを狙っていたからだ。


 羽ばたき、追いかけ、そして……


 ヤツは、息を大きく吸い込んだ。

 あれは……


 ……ファイアブレス!


 回り込んで庇うことを考えたが、間に合わない。

 距離が離れすぎている。


 久美子は……


 馬を降りていた。

 降りて、ドラゴンに向き合っていた。


 ……逃げられないと理解してしまったからか。

 その場に、踏みとどまっている。


 俺の心臓が、早鐘を打つ。

 どうすれば良い……? どうすれば助けられる……?


 だが……


 全てが、無駄だった。


 ドラゴンが炎を吐き出したからだ。

 久美子たちに向かって。


 恐ろしい大きさの炎の塊が、久美子たちを飲み込んでいく。


「久美子-ッ!」


 俺の叫び声が、その場に大きく響いた。

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