第53話 舞い降りる災厄

「無事に済んで良かったです」


 外野さんはホッとしている。

 俺も無事に済んで何よりだ。


「でも、今日はここで泊まりですからね。魔族領に近いですし、油断ならないですよ」


 持ち込んで来たソーセージを鍋に突っ込みながら、久美子。

 彼女がごはん関係の荷物を調達してくれていた。

 どうせ使い魔を使うから、荷物持つの楽だ、っていう理由で。


 ……でもな。

 本来はもっとちゃんとした食事をするべきなんだろうけど、今日はちょっとキャンプ気分だな。

 これちょっと、舐めてるかも。

 遊びじゃん。


 俺らの国、緩いのか?


 ……でも、酒が無いからな。

 そこまで行ってないから、許される?


 うーむ……


「キャベツくらいしか野菜無いのが気になるけど、食事1回くらい良いですよね」


 言って、久美子は包丁でキャベツをまな板で刻んでいる……




 ソーセージのスープと、フランスパンの欠片で夕ご飯にして、寝る準備を整える。

 外野さんは寝袋で眠ってしまった。


 あとは俺たちが交代で眠って、見張りをするだけ。

 ……だけど。


「久美子、キミは寝て欲しいんだけど」


 隣で起きてるんだよな。

 俺に任せて欲しいのに。


 でも


「……私たち、立場一緒よね」


 そうだけどさ。

 仕事の上では同じ四天王だけどさ。


 ……それだけじゃん。


「いや、違うよ」


 そう返した。


 で。

 ずいっと顔を近づけて


「……転写目的でしたよね。俺たち」


 久美子の反応は……

 ちょっとだけ、動揺していた。


「……だから、寝て欲しいんだけど」


 俺は別に2日くらい徹夜しても問題ないし。


 そこまで言ったら

 しばらく考えて……


「……じゃあ、お願いします」


 そう言って、毛布を被って横になった。


 最初からそうして欲しいかな。




 次の日。

 俺は欠伸しながら歩いていた。


 後は魔界から出たら終わりだ。

 しんどいねぇ。


 ちらりと使い魔馬に跨っている久美子を見る。

 ……寝れたかな?


 正直さ、子供に何か悪い影響出たら嫌だからな。

 それがあるのよ。


 そこのところ、気づいて欲しいんだけどなぁ。


 ……そして


 そこまでグチって、ハタと気づいた。


 昨日親父に会って欲しいって、言うの忘れてた!


 外野さん寝てて、絶好のタイミングだったのに!


 と。


 ……いや、待て。

 そんなこと、言って良い関係性か?

 そりゃ、転写を受け入れてくれる間柄だけど。


 俺の奥さんになりたいって、言ってくれたけどさぁ……


 あれ、ノリで言った可能性無いか……?


 そして、そんなことを考えていたときだった。


 俺たちの頭上を、大きな影が横切る。


 それも、2つ。


 ……見上げる。


 翼を持ち、飛行するオオトカゲ。

 緑色の鱗。長い角。そして身体の淵を彩る棘。

 体長10メートルを超える大きさ。

 翼の全長もそのくらい。

 そして足は4本。

 

 ……地球の脊椎動物の生物学的観点で見ると、あり得ない身体の構造。

 この惑星ホシ特有の身体構造を持つ、危険な生き物。


 ……ドラゴン。


 ぐるおおおおお……


 2頭のドラゴンは、俺たちを獲物と見定めたようだった。

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