第51話 魔族の里

 何もない土地を歩き続け。

 川が見えてきた。


 ……魔族の居住区だ。


「……意外に普通だな」


「そうだね……」


 歩きの俺たち男2人と、使い魔を変形させた馬に乗る久美子。

 はじめて見るはずの地域の様子をキョロキョロする。


 一見、ただの川沿いキャンプ場。

 血生臭さなんか、欠片も無い。


 今のところは。

 これからはどうなるか分からんけど。


 しかし……


「久美子」


「なぁに?」


 これについても突っ込んでおかないと。


「荷物、ちょっと多くない……?」


 例によって、巨漢使い魔にバックパックと、何か分からない巨大な鞄を持たせている。

 バックパックは分かるけど、あの鞄一体何……?


 パッと見、巨大な楽器か何かを入れそうなデカ鞄。

 この魔族領訪問に、何を持って来たっていうの……?


 すると久美子は


「色々あるのよ」


 ……なんか悪戯っぽい笑い方。

 こういう笑顔、これまで見なかったなぁ。




 最初の遭遇はドきつかった。


 進行方向で、誰か倒れてて


「プレシア! プレシーア!」


「エクペティー!」


 ……目が点になった。

 なんかね……


 路上で、髪の毛青と金の男女が……その


 ヤってんの。


 グチョグチョと。

 正常な感じで。


 ああ、やっぱこういう奴らなのか。

 まあ、種族が違うわけだしなぁ。


 ……俺たちは無視することにした。

 路上で愛し合ってるその魔族の男女は、俺たちなどまるで意に介さず頑張っていた。


 ……彼らは恥を知ってる種族だそうだけど。

 こういうのは恥では無いんだなぁ。彼らの中では。




 そしてさらに先に進んだら。

 裸の女が2人、戦っていた。

 周りに、それなりの数の魔族の男女が見守る様に立っている。

 無論、見守っている方はトレードマーク的衣装の貫頭衣をちゃんと着ているんだけども。


「イーガ!」


 裸の女の片方は両腕が無くなっていて。

 もう片方は、両手が光り輝いていて。


 ……なんとなく、何をやってるのかは理解できた。


 多分、代替わりの決闘。通称・成人式かな。


 えげつないけど、これもまた彼らの文化だし。


 手が輝いている女が、跳躍して両腕を無くした女に迫る。

 そして。


 手刀を振るい、両腕の他に、首まで刎ねて頭も無くす。

 同時に首から噴水のように血液が吹き上がる。


 頭と両腕を無くした胴体が、ガクリと崩れ落ち、倒れた。


「イーガ クセスーッ!」


 勝った方の女が、手の輝きを停止させ、両手を天に突き出す勝利のポーズと思われるものをとった。


「レイド!」


「レイド!」


 ギャラリーからの祝福の声。

 勝ち残った女は、嬉しそうに飛び跳ねながらそれに応え、返り血を洗うのか、川の方に歩いて消えていった。


 ……今、あの女の娘か母親が死んだんだな。

 それで全然平気か。……とんでもねぇ種族。


 すると


「……何ジロジロ見てるのよ」


 後ろから、そんなことを久美子に言われた。

 ハッとする。


 マズイ! 女の裸を鑑賞しているように思われたか!?


「ち、違うから!」


 魔族の残虐な文化を確認してただけだからッ!

 そう、言おうとしたら


「……何が?」


 久美子に、ちょっと分からない、みたいな顔で問い返される。


「俺、別に女魔族の裸を……」


「いや、あれで興奮したらヤバいってのは別に女でも分かるし、そんなこと言うわけないでしょ」


 ……冷静に突っ込まれた。

 良かった……


 ついでに、訊いてみた。


「何で裸で戦っていたのかな?」


 それについて久美子は


「血で服が汚れるからじゃない?」


 ……なるほど。


 そんなことを言っていたら。

 敗者になった女の死体を、周囲のギャラリーが片付けはじめた。


 ……多分、食うんだろうな。

 殺した場合の対処は全部一緒って、久美子が言ってたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る