第50話 士族と話したい

 前同様、列車や車を使って、国境近くまで来て。

 俺たちは魔界に入った。

 そこで外交官と合流する。


「今日はよろしくお願いします。四天王のおふたり」


 ……翔子さんと進美は留守番だからね。

 俺と久美子の2人で、この外交官男性……外野屋久仁そとのやくひとさんを護衛する。

 外野さんは、ちょっと俺たちとは違うけど、同じように軍服モデルの衣装。

 外交官が軍人扱いであることの証明。


 ……地球時代はどうか知らないけど、この惑星での外交官が軍人になるのは当たり前。

 何故って、外のやつらは人間じゃないんだもの。


 身体能力が人類の数倍で、再生能力を持ち、魔力まで持ってる化け物集団。

 そんな連中を相手するのに、文官を派遣するのは違和感がある。


「こちらこそお願いします」


 頭を下げる久美子。俺もそれに倣いながら


「外野さんは士族なんでしょうか?」


 そうです、という返事を期待して俺。

 いやね、別にその他の身分を見下したり嫌ったりしているわけじゃなく。


 たださ、俺の身の回りで、会話できる人間が、華族と平民だけだから。

 士族の話ができんのよ。


 それが寂しいんだ。


 すると、少し困ったような笑顔で


「あ、私は平民出身です……士族の生きざまに憧れて、必死で頑張りました」


 ……あ、そうなんだ。

 ちょっと寂しかったけど、それはそれで


 立派な人だな。

 俺はそう思った。




「道場通うの大変だったでしょう?」


「そこは近所に士族出身の仏僧のおじさんが居まして。タダで剣術訓練をつけてくれたんですよ」


 ……いや、平民でも話せるな。外野さん……。

 うん……これはこれで……


 警察や軍隊に就職するためには、一定以上の武術の腕を問われる試験がある。

 ある程度他人に勝てるレベルの武術の技術があることを示されなければ、筆記試験を受けることすらできない。

 その意味でも、士族の男子は幼少時から何かしらの武道をやるんだけども。


 で、士族に生まれると、この道場の月謝がタダになる。

 これが優遇。

 タダで習えるんだ。道場での武術を。


「士族の何が良かったんです?」


「だってカッコいいじゃないですか。軍人。どうしてもなりたくて」


 目をキラキラさせながら。


 ……なるほどな。

 だけど、俺はまあ、そこまでの情熱で仕事選んで無いんだよな……


 まあ、必死で頑張ったのは頑張ったんだけど。

 それで培われた実力で、一番雇用条件が良かったのが辺境警備隊。

 そしてそこから四天王。

 ……まぁ、上々だよね。


「そうなんですね」


 そう、彼の言葉に相槌を打っていたら


「……大河。あまり油を売るのは」


 久美子にそう、そっと囁かれた。

 ……しまった!


 すまんかった!


「すみません……そろそろ行きましょうか」


 頭を下げて、歩き出す。


 そしてそっと、久美子の耳元で「悪かった」と囁く。


 例によって、歩いて行軍。

 まだ、魔族との契約が完了してないからね。


 魔族の部族が住んでる地域に辿り着くまで……

 確か、5時間くらいか。


 向こうに着いたら書状を渡し、近場でキャンプして、一泊してから戻って来る予定。


 ……しかし大丈夫かなぁ?

 腹が減ったら人間を抵抗なく食べてしまう連中の領土だぞ?

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