第48話 旧時代の魔物

「この間、華族の家で匿われていた魔族に、大量の甘いお菓子を持たせて帰らせたのよ」


 翔子さんが、資料を片手に説明してくれている。

 俺はそんな姿を見ながら……


 久美子のことが頭から離れなかった。

 

 彼女は俺のことをキチンと見た上で、結婚したいって言ってくれた。

 そして転写を狙ってのセックスに挑んでくれたんだ。

 それは俺のことを信用しているということと同義。


 ……そして俺自身は、久美子のことは嫌いじゃない。

 むしろ、好きだ。


 ……だけど。これで彼女と結婚するのは正しいんだろうか?

 分からない……。


 ……母さんに……いや、親父に電話するか……?

 まさか、この年齢で親のアドバイスを受けることになるなんてな……


 就職したときに、もう親は関係ないって思ってたのに。


「大河!」


 すると、いきなり肩を叩かれた。

 ……ハッとする。


 叩いたのは久美子で。

 心配そうに、俺を見ていた。

 眼鏡の奥の目が、そういう色をしていた。


 そして皆が見ている……


 あ、俺……会議の内容を聞いてなかった。


「すみません。気をつけます」


 言って、可能な限り早く資料を読み直す。

 同時進行で、再開された会議の話を聞きながら。


 内容はこうだった。


 この間の魔族派の騒動で、保護するに至った魔族に、大量のお菓子を持たせて自分の部族に帰らせたらしい。

 無論、狙いは魔王の懐柔。


 で、秘密裏にその部族と連絡を取り、魔族たちの気に入ったお菓子と引き換えに、ある地下資源の採掘を許可させた。


 それは……


 なんと、ウランだ。


 ウランがあると、原子力発電が出来る。

 原子力は、色々あったけど、最終的に不可能と思われた高速増殖炉の開発と、核廃棄物の完全処理方法が発見されたため、俺たちの先祖が地球を出ていくときにはメジャーな電気エネルギー獲得手段になっていたらしい。

 現行、埋蔵量が極めて多い油田が地球帝国の領土内と、近場の魔界に在ったせいで、この2000年間、電気はほぼ火力発電で賄えていたけど。

 安全な高速増殖炉が手段としてある以上、原子力に切り替えた方が良いのは自明の理だろ。


 常日頃、石油が切れたらどうすんの? と思っていた俺は、ちょっとだけ心が躍った。


「……しかし、ウランか」


 久美子が言う。


「原子力って元々、殺戮目的で開発された技術なんですよね?」


「そうね。まあ、軍事技術と民生技術は表裏一体だから、別に珍しいことじゃ無いわ」


 そもそも、地球からこの惑星ホシに至るまでの星間移民を可能にした技術だって、元々は軍事技術だし。

 だから、発端のイメージが悪いからその技術そのものを問題視するのは間違いよ。


 翔子さんの言葉。


 まあ、そうなんだよな。

 技術には罪は無いんよ。


「で、俺たちは何をすればいいんですか?」


 翔子さんに質問する。

 すると


「魔族の居住地への、外交官の護衛ね。魔王へ外交官に陛下の御名御璽を施した書状を届けさせることで、正式に採掘許可が下りる流れよ」


 ……なるほど。

 魔族省のお役人の護衛ね。


 ……外交官は軍人扱いだから、士族の人かな。

 話が合うといいなぁ。


 あと、魔族たちの生活を見てみたい。

 怖いもの見たさで。

 きっと、メチャクチャなんだろうな。




 会議が終わると、久美子は翔子さんに何か話をしに行ってしまった。

 ちょっとだけ話したいことあったんだけど、まあ、後でも良いか。


 話す時間はいっぱいあるし。


 俺は携帯端末を取り出して、親父にメッセージを送った。


『ちょっと人生相談がある。晩に電話するけどいい?』

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