第45話 獅子の爪

 彼女は俺の技を理解していてくれていたけど。


「……だけど、実用性無いですよ大河さん。その技」


 ……続いたのは辛辣なコメント。

 ショックを受けた。


 そして俺が衝撃を受けたのに気づいたのか、久美子は少し言いづらそうに


「その技、念動力で斬撃の制御とブーストアップをしてるわけですよね? ということは、注意が自分の刀に向いている必要があるのでは?」


 こう、コメント。


 その発言に、俺は頷かざるを得ない。

 ……確かに。

 そういう細かい制御をする場合、刀に注目している必要がある。


 だから……


「……それだと相手に斬撃を当てるの難しいと思うんですが、違うんですか?」


 ……違いません。


 ガクッ、と俺は崩れ落ちた。

 必死で考えた必殺技だったのに……!


 そんな俺に


「あ、そうそう」


 ……あからさまな話題転換。

 自分が拙いことを言ってしまったと思ったのか


「前から気になっていたんですが、大河さんって予防接種どうしてたんです? 注射器、刺さらないのでは?」


 ……で、持ち出してきた話題。

 なかなか着眼点が鋭いね。


 俺の身体は物理攻撃が通じない。

 刃物は刺さらないし、斬れない。

 殴っても内臓や骨にダメージが行かない。

 矢も銃弾も通らない。


 皮膚を叩かれた痛みはあるけど、ダメージが無い。


 そういう身体だ。


 そうすると……

 注射や手術できないじゃん。

 病気になったらどうするの?


 医療関係を考えると、当然出てくる疑問。


 流石は久美子だと思う。


「それはね……」


 俺は立ち上がり、彼女が座ってるベンチの隣に座って話す。


「俺の爪をさ、冶金するときに混ぜ込んで作った金属で針を作るんだよ」


「……それで?」


「それだけ。それだけでその針は俺の身体に刺さるようになる」


 ……色々医者が考えてくれて、考え出してくれた方法なんよ。

 これがダメなら、目から注入するしかないって言われたんで、俺としても嬉しい発見だったんだけど。


「……ひょっとして、ネメアの獅子の毛皮をヘラクレスが剥がすとき、刃物として使ったのが獅子自身の爪だったから?」


「……ご名答」


 ……相当医者が考えて、辿り着いた正解に、彼女はすぐに辿り着いた。

 流石だ。


 俺の話に彼女はだいぶ感心したみたいで。


「徹底して神話に則った魔力ですね……」


「そだね」


 まあ、それが神話系魔力ってもんなんだよね。

 キミも知ってると思うけど。


 すると


「……そんな情報、私に話してしまって良いんですか?」


 ちょっと動揺しながら彼女。俺は


「……何で? 仲間でしょ?」


 普通にそう、返す。

 それに、久美子に知っておいて貰えれば、大事な局面で何か貴重な意見を貰えるかもしれないよね。

 だから躊躇なく言ったんだけど、何か不味かった?


「……爪の処分は気をつけてくださいよ」


 うん。それは分かってる。

 ちょっと顔を逸らしてそう言う彼女に、俺は言った。


「爪を切るときは、生ごみに混ぜて捨てるようにしてるから。万一を考えて」


 ……将来的に、陛下はどうするんだろう?

 陛下は爪を切ったとき、切った爪を焼却処分することになるのかな?

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